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四逆散|怒りっぽい・下痢・腹痛──“肝鬱脾虚”を解きほぐす気逆調整の処方
イライラ、腹部膨満、食欲不振、下痢──それは「肝気鬱結・脾胃失調」のサインかもしれません。
四逆散(しぎゃくさん)は、気の巡りを整え、肝脾の調和を促す中医的な“気逆調整処方”です。
本記事では、薬剤師向けに構成・証・適応・服薬指導・副作用・製剤比較まで体系的に解説いたします。
🧠 処方名の由来
「四逆」とは“四肢が冷える”状態を指しますが、本方においては内因性の肝鬱気滞による逆冷(手足の冷え)の意。
実際には温めるのではなく、“鬱滞を解いて巡らせる”ことで冷えを改善します。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:四逆散(しぎゃくさん)
- 出典:『傷寒論』
- 分類:疏肝解鬱・和解肝脾剤
- 構成生薬:柴胡、芍薬、枳実、甘草
🔍 主治と治法
- 主治:肝気鬱結による精神不安、抑うつ、胃腸症状(下痢・腹痛・膨満感)、月経異常、四肢の冷感
- 治法:疏肝解鬱・調和脾胃・理気止痛
🧪 ユニット構造と配合意図
- 柴胡:疏肝解鬱・昇清
- 芍薬:柔肝止痛・養血緩急
- 枳実:破気導滞・理気消脹
- 甘草:調和諸薬・緩急止痛
上下・内外・肝脾の気の巡りを四方から整える構造です。
🔬 配合理論と証の成立
- 君薬:柴胡(肝気を疏通)
- 臣薬:芍薬(柔肝緩急)
- 佐薬:枳実(破気・降逆)
- 使薬:甘草(調和・止痛)
- 証型:肝鬱気滞・肝脾不和・気逆下痢
📌 証と適応判断
- 適応:イライラ、憂うつ感、下痢・腹痛・過敏性腸症候群、月経痛・月経不順、PMS
- 舌:淡紅・苔薄白/脈:弦脈・やや細
- NG:寒証・実熱証・腸炎など感染性下痢
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本では便秘型ではない過敏性腸症候群(IBS)・月経前緊張症(PMS)・自律神経失調に応用されます。
中医学では「肝脾不和」「気滞下行」「肝鬱気逆」などの代表処方とされます。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- 医療用:あり(ツムラ35番のみ)
- OTC:あり(第2類医薬、通販等)
💊 副作用と注意点
- 柴胡:間質性肺炎・肝機能障害の報告あり。長期使用には注意
- 枳実:過敏例では胃部不快感や腹痛が出ることがある
- 全体的に虚実中間証向け。冷え症や気虚型では慎重に
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 加味逍遙散:冷え・月経不順・虚証傾向がある女性に
- 小柴胡湯:発熱・悪寒・微熱など“少陽証”が主体のとき
- 柴胡加竜骨牡蛎湯:実熱・動悸・怒り・不眠を伴う神経症状に
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「ストレス性の下痢」「怒りっぽくなった」「月経前に腹が張る」など、肝気鬱結傾向を見抜く
- 服用初期に下痢の改善・情緒の安定が得られれば継続価値あり
- 生活指導(睡眠・食事・ストレス)とのセット提案が鍵
🧾 使用例と処方医の意図
- 過敏性腸症候群(IBS):情緒不安+腹痛+下痢反応
- 月経困難症:PMS・下痢・腹部張り・怒りっぽさ
- 不定愁訴:更年期・若年層のストレス関連症候群
🔚 まとめ|“気の巡り”から冷え・下痢・情緒不安を整える中核の処方
四逆散は、ストレス性の消化器症状・月経異常・精神不安に対応する、肝脾調和・気逆解鬱の代表方剤です。
薬剤師としては、単なる腹部症状にとどまらず、気の偏在・情緒の偏りを見抜く力が問われます。
現代病にも適応が広く、**気のメカニズム理解の起点**としても活用できる処方です。