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当帰飲子|乾燥性皮膚炎・かゆみ・冷え──“血虚風燥”を潤して痒みを鎮める補血止痒方
皮膚が乾いてかゆい、血色が悪く冷えやすい──それは「血虚風燥」による皮膚トラブルかもしれません。
当帰飲子(とうきいんし)は、乾燥性皮膚炎・アトピー性皮膚炎・かゆみ・血虚体質に対し、補血・養血・祛風止痒を同時に行う、体質改善型の皮膚漢方です。
本記事では、薬剤師向けに構成・証・配合意図・製剤比較・服薬指導・副作用・他処方との鑑別までを網羅して解説いたします。
🧠 処方名の由来
主薬である「当帰」に由来し、「飲子」は比較的穏やかに作用する内服煎じ薬の意味。皮膚疾患の「本(体質)」と「標(症状)」を同時に改善する処方であることを示します。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:当帰飲子(とうきいんし)
- 出典:『済生方』
- 分類:補血養血・祛風止痒
- 構成生薬:当帰、川芎、芍薬、地黄、黄耆、防風、荊芥、何首烏、白朮、甘草
🔍 主治と治法
- 主治:乾燥性皮膚炎、かゆみ、アトピー、手足の冷え、慢性湿疹、血色不良
- 治法:補血養血・祛風止痒・健脾補気
🧪 ユニット構造と配合意図
- 当帰・川芎・芍薬・地黄:補血・活血・養肝・肌膚栄養
- 防風・荊芥:祛風・止痒(表の風邪・乾燥によるかゆみに)
- 黄耆・白朮:補気健脾・免疫強化・慢性化防止
- 何首烏:補肝腎・養血・黒髪・肌膚若返り
- 甘草:調和諸薬・緩和作用
体質=血虚、症状=かゆみ・乾燥、という“本虚標実”タイプにバランスよく対応する構造です。
🔬 証型と適応判断
- 証型:血虚風燥・乾燥瘙痒・虚弱体質における皮膚炎
- 適応:かゆみ/皮膚乾燥/慢性湿疹/皮膚のひび割れ/夜間増悪するかゆみ
- 舌:淡紅・乾燥傾向/脈:細弱
- NG:湿潤性が強く赤み・滲出がひどい急性皮膚炎
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本では乾燥性アトピー性皮膚炎・かゆみ・体質改善の目的で長期使用されます。
中医では「血虚生風」「肝血不足」「風燥痒疹」などに位置づけられ、肌膚栄養+止痒を目的に使われます。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- 医療用製剤:あり(ツムラ86番のみ)
- OTC製剤:あり(第2類医薬品/漢方薬局・通販にて)
💊 副作用と注意点
- 胃腸虚弱者では、補血薬により軟便・食欲低下を起こす場合あり
- 炎症・湿潤が強い急性期には悪化する可能性があるため注意
- 甘草連用による偽アルドステロン症に留意(長期使用時)
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 消風散:急性の紅斑・湿潤・熱感があるとき
- 温清飲:虚熱・湿疹+のぼせ・イライラが強いとき
- 加味逍遙散:血虚+情緒不安・月経異常がある女性に
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「乾燥してかゆい」「夜になるとかゆくなる」「冬に悪化する」などの訴えを確認
- 体質改善として中長期の継続を前提に、入浴・保湿・衣類指導もセットで
- 赤み・滲出が強くなったら一時中止 or 他処方へ切替を検討
🧾 使用例と処方医の意図
- アトピー性皮膚炎:乾燥・慢性化・夜間増悪型
- 皮膚掻痒症:高齢者・血色不良・冷え体質を伴う例
- 産後の肌トラブル・慢性蕁麻疹などにも応用あり
🔚 まとめ|“乾燥してかゆい”血虚肌に潤いと栄養を与える体質改善処方
当帰飲子は、乾燥性の皮膚炎・かゆみ・虚弱体質・血色不良に対し、補血・養肝・祛風止痒の三方向から改善を図る処方です。
薬剤師としては、皮膚の状態・かゆみの質・全身症状を丁寧に聞き取り、長期的ケアと併用指導を行うことが求められます。