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七物降下湯|高血圧・のぼせ・不眠──“肝陽上亢”と“肝血虚”を同時に整える降圧補血の処方
頭がのぼせる、血圧が高い、眠れない、いらいらする──それは「肝陽上亢+肝血虚」のサインかもしれません。
七物降下湯(しちもつこうかとう)は、高血圧・動脈硬化傾向・更年期症状などに対応する、補血・鎮肝・降圧のバランス処方です。
本記事では薬剤師向けに、構成・証・適応・服薬指導・副作用・製剤比較まで包括的に解説いたします。
🧠 処方名の由来
七物=構成生薬が七味であることに由来し、降下=血圧降下作用を示唆した経験方名です。
本方は、元は加味四物湯に牡丹皮・釣藤鈎・黄耆などを加えた構成で、虚熱・血虚・肝陽を統合して調整します。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:七物降下湯(しちもつこうかとう)
- 出典:修琴堂
- 分類:補血養肝・平肝潜陽・降圧
- 構成生薬:当帰、川芎、芍薬、地黄、釣藤鈎、黄耆、黄柏
🔍 主治と治法
- 主治:高血圧、頭痛、のぼせ、耳鳴り、動悸、不眠、肩こり、怒りっぽさ、更年期障害
- 治法:補血養肝・清熱降火・鎮肝安神・健脾扶正
🧪 ユニット構造と配合意図
- 四物湯(当帰・芍薬・地黄・川芎):補血・養肝・活血
- 釣藤鈎:平肝潜陽・鎮静・めまい・ふらつき抑制
- 黄耆:補気健脾・補血生血・疲労軽減
- 黄柏:清熱瀉火・虚熱・湿熱除去
高血圧の背景にある気血両虚+肝陽上亢を同時に整える合理的構成です。
🔬 配合理論と証の成立
- 君薬:当帰・芍薬・地黄(補血養肝)
- 臣薬:釣藤鈎(平肝安神)・黄耆(補気益血)
- 佐薬:川芎(活血行気)・黄柏(瀉火清熱)
- 証型:肝陽上亢・肝血虚・気血両虚・血虚風動
📌 証と適応判断
- 適応:高血圧、頭痛、動悸、のぼせ、耳鳴り、不眠、目の充血、怒りっぽさ、乾燥肌
- 舌:紅・少苔または黄苔/脈:弦・細数
- NG:寒証・体力低下が顕著な場合や低血圧には不適
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本では本態性高血圧・自律神経失調・更年期高血圧に対し、クラシエや小太郎漢方製薬の製剤が医療用・OTCで流通。
中医的には「肝陽上亢+血虚風動+陰虚火旺」などの病証に分類されます。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- 医療用:ツムラ46番をはじめとオースギや東洋でも販売。
- OTC:第2類医薬品としてドラッグストア等で流通
💊 副作用と注意点
- 黄耆・黄柏:寒熱のバランスに注意(虚寒者・実熱者では慎重に)
- 当帰:体質により胃部不快・下痢が出る例あり
- 全体として虚熱型の高血圧に向くが、実証・寒証には不適
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 抑肝散加陳皮半夏:怒り・不眠・神経質+虚証の方
- 天王補心丹:精神不安+陰虚不眠中心の方
- 釣藤鈎湯:実熱タイプの高血圧+めまい・ふらつき
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「のぼせて血圧が高い」「眠れない」「イライラする」など虚実入り混じる症例に対して
- 服薬初期は頭重・耳鳴り・睡眠改善などを確認
- 塩分・カフェイン・睡眠環境指導なども合わせて提案
🧾 使用例と処方医の意図
- 更年期高血圧:のぼせ・不眠・情緒不安・目の充血
- 本態性高血圧:脈弦・顔面紅潮・精神不安
- 高血圧+動悸・肩こり・乾燥肌・便秘のある例
🔚 まとめ|虚実複雑な高血圧に応える補血+鎮肝降圧方
七物降下湯は、虚熱・肝陽上亢・肝血虚に伴う高血圧・のぼせ・不眠に対応する、補血・清熱・安神・降圧の構造が整った優れた処方です。
薬剤師としては、血圧の数値以上に全体症状と証型のバランスを見極め、生活習慣のアドバイスと併せて提案する力が求められます。
この記事の分類
- シリーズ分類:【学習者向け】方剤理論解説
- 弁証分類:肝血虚 肝陽上亢
- 五臓六腑分類:心
- 出典分類:修琴堂