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炙甘草湯|動悸・息切れ・虚弱・不整脈──“心気虚・心血虚”を温め補う経典の補気養心方
動悸がする、息が切れる、脈が乱れる、疲れやすい──それは「心気虚・心血虚」のサインかもしれません。
炙甘草湯(しゃかんぞうとう)は、『傷寒論』に由来する虚弱体質・不整脈・心悸亢進に対応する補気・養心・強心の古典的名方です。
本記事では、薬剤師向けに構成・証・中薬配合・服薬指導・製剤比較・副作用・適応例まで、体系的に解説いたします。
🧠 処方名の由来
主薬である“炙甘草”(甘草を蜜で炒ったもの)の名を冠し、その温補性と健脾・養心の働きを象徴しています。
別名「復脈湯」とも呼ばれ、失調した脈を整える処方として古来より知られています。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:炙甘草湯(しゃかんぞうとう)
- 出典:『傷寒論』『金匱要略』
- 分類:補気養心・温補心陽剤
- 構成生薬:炙甘草、桂枝、生姜、人参、阿膠、麦門冬、麻子仁、大棗、地黄、火麻仁、酒、清水
🔍 主治と治法
- 主治:心悸亢進、不整脈、息切れ、脈結代、虚労・虚弱、心動過多、盗汗、眩暈、口渇、便秘
- 治法:補気養血・温陽復脈・滋陰潤燥・安神定悸
🧪 ユニット構造と配合意図
- 炙甘草・人参・大棗:補気・養心
- 阿膠・地黄・麦門冬:養血・滋陰・潤燥
- 桂枝・生姜:温陽・通脈
- 麻子仁:潤腸通便
心気虚+心血虚に対応し、心脈の不整・動悸・息切れを多面的に整える処方です。
🔬 配合理論と証の成立
- 君薬:炙甘草(温中補気・潤肺・安神)
- 臣薬:地黄・阿膠・人参(養血・補気)
- 佐薬:麦門冬・桂枝・麻子仁(滋陰・温陽・潤腸)
- 使薬:大棗・生姜(調和諸薬・補中緩急)
- 証型:心気虚・心血虚・心陽不足・陰陽両虚
📌 証と適応判断
- 適応:心悸・息切れ・疲労感・舌淡紅・脈弱結代・睡眠不安・陰虚便秘・盗汗
- 舌:淡紅・少苔または無苔/脈:結代・弱脈
- NG:実熱証・過敏性の動悸・感染性心疾患
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本では心疾患後・虚弱体質・高齢者の不整脈に用いられ、特にクラシエ・ツムラから医療用製剤が流通。
中医学では「心気不足・脈結代・心陰不足」などを改善する経絡系・心血系の補養方とされています。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- ツムラ:64番(炙甘草湯エキス顆粒・医療用)
- コタロー:医療用製剤あり
- OTC:第2類医薬品として一部流通(主に動悸・疲労向け)
💊 副作用と注意点
- 甘草:偽アルドステロン症に注意(むくみ・高血圧)
- 人参・地黄:消化機能が低下した方では胃もたれに注意
- 便秘傾向者は麻子仁で改善されやすいが、潤下作用過多に注意
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 補中益気湯:消化器・免疫虚弱・脱力感が主症のとき
- 酸棗仁湯:不眠中心、血虚+陰虚に
- 桂枝加竜骨牡蛎湯:動悸・夢多・虚実錯雑のとき
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「心臓が弱く感じる」「疲れて動悸がする」「脈がとぶ感じがある」などの症状に注意
- 症状の出現時間・誘因・既往歴(心電図異常・心疾患)を確認
- 補気養血系は徐効性。1〜2週間の継続が効果指標
🧾 使用例と処方医の意図
- 心臓病後の動悸・脈の乱れ
- 慢性疲労・息切れ・夜間不眠・夢多・便秘
- 高齢者の不整脈・脈が弱く結代するタイプ
🔚 まとめ|“心気と心血”を整えて、命門の火を灯しなおす再生の処方
炙甘草湯は、心気虚・心血虚・陰陽両虚による不整脈・動悸・虚弱・息切れ・便秘に対応する古典的な再生強心処方です。
薬剤師としては、補気養心+補血滋陰+安神潤燥を理解し、虚弱症状全体を見通した服薬指導・生活支援が求められます。