【薬剤師/登販向け】薬機法を守る!漢方相談で“診断”にならない話し方とは

はじめに:その言い回し、“診断”になっていませんか?

「冷え症ですね」「あなたのその症状、胃熱です」——そんなつもりがなくても、そのひと言が“医師法違反”と判断される恐れがあります。
特に漢方相談の現場では、体質や症状の背景を丁寧に読み解く必要があるため、言い回しが診断行為に近づいてしまうリスクが高くなります。

この記事では、薬機法・医師法の基本をふまえた上で、“診断”と誤解されない相談技術をお伝えします。
薬剤師・登録販売者の方が、漢方相談を安全かつ信頼感のある形で行えるよう、言い換えの実例やテンプレートを交えて具体的に解説いたします。

1. なぜ「診断」と誤解されるとアウトなのか?

1-1. 医師法・薬機法が禁じる“診断行為”とは

医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。ここでの“医業”とは、診断・治療・予防を目的とする医学的判断と行為全般を指します。
つまり、資格のない者(薬剤師や登録販売者を含む)が「〇〇病です」「〇〇の治療にはこれが効きます」と明言することは違法とされる可能性があります。

また、薬機法第24条の6では、広告においても「効果効能の断定的表示」を禁じており、店舗での発言も準じる対応が求められています。

1-2. 相談行為と診断行為の“境界線”

診断ではなく、相談やアドバイスの範囲であれば、薬剤師・登録販売者としての対応は可能です。
そのためには、「断定しない」「治療を誘導しない」「医学用語を濫用しない」という3つのポイントを意識する必要があります。

  • NG例:「この症状は胃熱ですね。清熱薬を出します」
  • OK例:「このような状態は“熱がこもっている”と表現されることがあります」

あくまでも「伝え方」の問題であり、中医学的な視点そのものを禁じられているわけではありません

2. 登録販売者・薬剤師の役割と限界

2-1. 法律で認められている範囲

登録販売者は、一般用医薬品の販売・情報提供において、症状や相談内容に応じた商品提案を行うことが認められていますが、「診断」「治療」はできません。
薬剤師もまた、医師の代行としての診断権は持たず、医学的判断ではなく薬学的判断の範囲で対応する必要があります。

2-2. 法令に抵触せず“信頼される”相談を行うには

診断をせずに適切な商品を提案するには、相手の話を聞き取り、背景を引き出す力が必要です。
その上で、「漢方の考えでは…」「こうしたタイプに合うことがあります」といった表現で情報提供することで、安全かつ効果的な支援が可能になります。

3. “診断”を避けるための言い換え実例集【NG→OK】

3-1. よくあるNGワードとその理由

  • 「あなたは〇〇証ですね」→ 診断と見なされる恐れ
  • 「この薬で〇〇が治ります」→ 治療を目的とする断定表現
  • 「これは〇〇病に効きます」→ 医業類似行為の疑い

これらは、たとえ意図的でなくとも“医療行為の代行”と見なされる可能性があるため、言い換えが必要です。

3-2. 安全な言い換えフレーズ例(症状・体質別)

NG表現 OK表現
「あなたは気虚体質です」 「元気が出にくいタイプかもしれませんね」
「陰虚が原因ですね」 「体に潤いが足りていない状態かもしれません」
「〇〇病だからこの薬が効きます」 「こういった状態の方に使われることが多いお薬です」
「瘀血ですね」 「血の巡りが滞っている傾向があるかもしれません」

ポイントは「〜かもしれません」「〜の傾向があります」「〇〇ではなく△△と考えることもできます」といった“曖昧表現”を活用することです。

3-3. 相談全体の流れに沿った会話例

  • 質問フェーズ:「最近、疲れやすさや冷えなどは気になりますか?」
  • 評価フェーズ:「お話をうかがっていると、体を温める力が少し弱っているかもしれませんね」
  • 提案フェーズ:「この漢方薬は、そういった傾向のある方に合いやすい処方です」

4. 中医学的アプローチをどう表現するか

中医学では「気・血・水」「虚・実」「寒・熱」などを用いて体の状態を表現しますが、これをそのまま伝えると医学的診断と誤認される可能性があります。

そこで重要なのが、「漢方ではこのように考えます」と視点の切り替えを明示することです。

  • NG:「あなたは“肝鬱気滞”です」
  • OK:「漢方では“気の巡り”が滞ることで、こうした状態になると考えることもあります」

また、「中医学では」「漢方の世界では」「古くからの理論では」と立場を明示する枕詞をつけると、誤解されにくくなります。

5. 会話テンプレート|初回相談・フォロー時の言い回し例

初回相談時

  • 「お困りの症状はどんな時に強く出ますか?」
  • 「体の冷えや疲れやすさなどは普段からありますか?」
  • 「漢方では、“気”や“血”のバランスが関係すると考えられています」
  • 「体質の傾向をうかがって、合いやすい処方をご提案することはできます」

継続フォロー時

  • 「以前より眠りの質はいかがですか?」
  • 「続けてみて、お体に何か変化はありましたか?」
  • 「もし何か違和感があれば、処方の見直しも検討できます」
  • 「今の傾向をふまえて、次のご提案をさせていただきます」

6. まとめ:患者との信頼を築きながら、法令を遵守する

「診断ではない相談技術」を身につけることは、法令順守のためだけでなく、相談者に安心感を与え、信頼を築く手段でもあります。

中医学や漢方の考えを活かしながら、断定を避け、相手の話を尊重する姿勢を持つことで、安全で満足度の高い漢方相談が実現できます。

薬剤師・登録販売者としての“言葉選び”は、信頼にも、リスクにも直結します。
ぜひ本記事を参考に、現場で安心して相談できる体制づくりを進めていただければ幸いです。

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