大建中湯 vs 小建中湯|腹痛と冷えに使われる“建中湯”の違い
「お腹が冷えると痛くなる」「食後や夜間に腹部がしくしく痛む」──
こうした腹痛は、体質によって漢方処方の選択が異なります。中でも「建中湯(けんちゅうとう)」という名前が付く2つの処方──
大建中湯(だいけんちゅうとう)と小建中湯(しょうけんちゅうとう)は、冷えや虚弱による腹痛に用いられる名方ですが、それぞれに明確な適応の違いがあります。
本記事では、それぞれの処方の特徴と違いを、中医学の視点から詳しく比較し、適切な使い分けを解説いたします。
建中湯とは?──“お腹を建て直す”処方群
「建中」とは、中焦(脾胃)を補い、気血を養いながら、お腹を温めて痛みを和らげるという意味を持つ言葉です。
「建」は建設の意であり、虚弱に傾いた消化機能や胃腸の防衛力を「立て直す」ことを目的とした処方群を示しています。
この「建中湯」の名を持つ代表格が、小建中湯と大建中湯。
一見似たような処方名ですが、構成生薬や適応となる体質がまったく異なるため、慎重な選択が求められます。
小建中湯とは?──体力虚弱・小児にも使いやすい処方
処方構成:
- 桂皮
- 芍薬
- 大棗
- 生姜
- 甘草
- 膠飴(こうい)
主な効能:
中虚(脾胃虚弱)による腹痛、倦怠感、虚冷、寝汗、小児の夜泣き・虚弱体質
特徴:
小建中湯は、中焦の虚寒による腹部の冷えと痛みに対して、甘温補中(甘く温めて中を補う)というアプローチで働きます。体力の低下した虚証体質の方、特に小児や高齢者、女性に使いやすい穏やかな処方です。
膠飴(麦芽糖)を多く含み、胃腸の粘膜を保護しながら、甘味で安心感を与えるような処方設計になっており、子どもにも飲みやすい漢方として親しまれています。
適応体質:
- 虚弱体質で冷えやすい
- 食が細く、すぐ疲れる
- 慢性的な軽度の腹痛
- 腹部の冷え・張り感・倦怠感
大建中湯とは?──激しい冷え腹痛に即効性を発揮
処方構成:
- 山椒
- 乾姜
- 人参
- 膠飴
主な効能:
中寒による激しい腹痛、腸の冷え、術後の腸閉塞予防・麻痺性イレウスなど
特徴:
大建中湯は、名前の通り強力に中焦を温める処方です。山椒の辛熱性と乾姜の温中力により、強い寒邪を取り除きながら、膠飴と人参で気を補い、腸の蠕動(ぜんどう)運動を活性化します。
近年では、術後の腸機能の回復促進(イレウス予防)として医療現場でも活用されており、即効性が求められる現場で選ばれる処方です。
適応体質:
- 冷えにより腹痛が強く出る
- お腹がグルグルと鳴るが便が出ない
- 胃腸が冷えて食欲が低下している
- 術後の腸蠕動回復に
処方の比較:小建中湯 vs 大建中湯
項目 | 小建中湯 | 大建中湯 |
---|---|---|
体質 | 虚弱・虚寒・小児 | 実寒・寒積・成人男性に多い |
主な症状 | 慢性の軽い腹痛・冷え・食欲不振 | 激しい冷え腹痛・腸の動きの低下 |
作用 | 穏やかに補い整える | 速やかに温め動かす |
使用場面 | 子ども、虚弱な女性、高齢者 | 術後、急性の腹部冷え、成人男性 |
構成の特徴 | 甘温で安心感・緩和作用 | 辛温で刺激性・即効性 |
実際の使い分け事例
事例1:「夜になると腹部がシクシク痛み、食欲もない」「冷たいものを取るとすぐお腹が痛む」──このような症状を訴える小学生には、小建中湯が効果的です。
事例2:「術後にガスが出ず腹部が張って痛む」「お腹が冷えて動かない感じがする」──このようなケースでは、大建中湯によって腸の働きが促され、短期間での回復が見込まれます。
まとめ:あなたの「建中湯」はどちら?
同じ「建中湯」の名前を持つ処方でも、その目的や適応はまったく異なるものです。腹痛や冷えに対して安易に「名前で選ぶ」のではなく、体質と症状の全体像から処方を選ぶことが重要です。
日常的な冷え性や食欲不振、体力のない小児や高齢者には「小建中湯」。
強い腹部の冷えと痛み、術後の腸機能回復には「大建中湯」。
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