柴胡加竜骨牡蛎湯 vs 桂枝加竜骨牡蛎湯|不安・動悸・神経症状の体質別処方選択
不安や動悸といった精神症状に悩む方は多くいます。漢方では、同じような症状に見えても体質(虚証・実証)に応じて使う処方が異なります。本記事では、代表的な処方である「柴胡加竜骨牡蛎湯」と「桂枝加竜骨牡蛎湯」の違いと選び方について、東洋医学的な視点から詳しく解説します。
はじめに:精神症状と漢方の関係
現代人に多いストレス、不安、不眠、動悸、驚きやすさ――こうした「神経症」的な症状に対して、西洋医学では抗不安薬や睡眠薬などが処方されることが多いですが、漢方では体質や症状の背景にある「証」を見極めたうえで処方が選ばれます。
なかでも「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」と「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」は、竜骨・牡蛎という鎮静作用のある生薬を含みながら、体質に応じた異なる使い方がなされています。
1. 柴胡加竜骨牡蛎湯:実証タイプに
適応タイプ:体力中等度以上・実証傾向・胸脇苦満あり
この方剤は、少陽病(半表半裏)で胸脇苦満や心下痞硬、動悸、不眠などの症状に適します。比較的体力があり、ストレスを内に溜め込みやすい「実証」タイプに向いています。
構成生薬:柴胡、半夏、黄芩、桂枝、大棗、茯苓、生姜、竜骨、牡蛎、人参
柴胡・黄芩で熱を冷まし、竜骨・牡蛎で精神を安定させます。また茯苓や人参で消化機能を整えるなど、多面的な作用を持っています。
よくある適応例:
- 緊張型の動悸・不眠・神経過敏
- 高血圧に伴う不安感
- ヒステリー・PMSの精神症状
2. 桂枝加竜骨牡蛎湯:虚証タイプに
適応タイプ:体力低下・冷え症・虚証傾向・動悸が主症状
桂枝加竜骨牡蛎湯は「桂枝湯」に鎮静薬である竜骨・牡蛎を加えた構成で、心身の不安定さが冷えや虚弱体質から来ているときに使います。
構成生薬:桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草、竜骨、牡蛎
この構成は、陽気の巡りを良くする桂枝、血の巡りを整える芍薬、そして精神を鎮める竜骨・牡蛎でバランスを取り、全体的に穏やかな処方です。
よくある適応例:
- 神経衰弱・慢性的な不安
- 虚弱体質に伴う不眠
- 自律神経失調症・更年期障害
3. 実証 vs 虚証:どちらを選ぶ?
柴胡加竜骨牡蛎湯は実証(しっかりした体質)、桂枝加竜骨牡蛎湯は虚証(体力がない、冷えやすい体質)に対応しています。
特徴 | 柴胡加竜骨牡蛎湯 | 桂枝加竜骨牡蛎湯 |
---|---|---|
体質 | 実証・中〜高体力 | 虚証・虚弱体質 |
主な症状 | 胸脇苦満・イライラ・動悸・便秘傾向 | 動悸・不安・冷え・自律神経不調 |
対象 | ストレスに反応しやすい活動的な人 | 疲れやすく内向的で不安が強い人 |
4. 補足:併用や切り替えの考え方
精神症状は一朝一夕で改善するものではなく、体質が変わるにつれて方剤も調整が必要になります。例えば、はじめは柴胡加竜骨牡蛎湯を使っていたが、体力が低下した場合には桂枝加竜骨牡蛎湯へ切り替える、といった対応も可能です。
また、どちらの処方にも竜骨・牡蛎という鎮静薬が含まれており、不安・驚きやすさ・夢をよく見るなどの「神(しん)の不安定さ」に対しては共通して効果を発揮します。
まとめ
柴胡加竜骨牡蛎湯と桂枝加竜骨牡蛎湯は、どちらも精神不安や動悸に用いられる名方ですが、体質(実証か虚証か)により選ぶ処方が異なります。症状だけでなく、体の声にも耳を傾け、適切な処方を選びましょう。
ご自身での判断が難しい場合は、薬剤師や中医学に詳しい専門家に相談されることをおすすめいたします。