目次
大黄甘草湯 vs 麻子仁丸|便秘のタイプ別で使い分ける漢方処方
便秘とひとことで言っても、その原因や体質によって適した漢方処方は異なります。この記事では、古くから多くの臨床例をもつ「大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)」と「麻子仁丸(ましにんがん)」を比較し、便秘のタイプ別に使い分けるポイントを詳しく解説します。
便秘にもタイプがある?|中医学の視点
中医学では、便秘は単なる「出ない」状態ではなく、体の内側のバランスの乱れと捉えます。以下のようなタイプに分類されることが一般的です:
- 実熱便秘:体内に熱がこもり、便が乾燥して硬くなるタイプ
- 虚秘:気虚や血虚、陰虚など、体の潤いや力が不足するタイプ
- 冷秘:寒さにより腸の動きが低下し、排便力が弱くなるタイプ
今回比較する「大黄甘草湯」は実熱便秘に、「麻子仁丸」は虚秘(特に陰虚便秘)に用いられる名方です。
大黄甘草湯とは|実熱による「頑固な便秘」に
『傷寒論』に記載される代表的な方剤のひとつで、構成は非常にシンプルです:
- 大黄:腸内の熱を取り、下法(便通)を促す
- 甘草:緩和作用をもち、大黄の作用を調整する
高熱やのぼせ、口の渇き、腹部膨満などの熱証を伴う便秘に適しています。
大黄甘草湯が適している症状
- 便が硬くて出ない
- 腹部が張って苦しい
- 顔が赤く、舌が赤く苔が黄色
- 熱っぽく、イライラしやすい
注意点
大黄の瀉下作用は比較的強いため、体力が低下している人・高齢者・妊婦には不向きです。
麻子仁丸とは|潤して出す、虚弱タイプの便秘に
『金匱要略』に記される、やさしい通便薬として知られています。構成は以下の通り:
- 麻子仁:腸を潤して滑らかにする
- 杏仁:潤しつつ、肺気を下げる
- 白芍・芍薬:血を補い、腸の緊張を緩和
- 枳実:気の巡りを促進し、腸の動きを助ける
- 厚朴:消化促進と気の滞り解消
- 大黄:瀉下を助ける(ただし量は調整可)
麻子仁丸が適している症状
- 便が乾燥し、うさぎの糞状になる
- 排便に力が入らず時間がかかる
- 疲れやすく、肌や髪が乾燥している
- 高齢者や産後・病後の虚弱な方
注意点
即効性は低めですが、副作用が少なく、慢性便秘の体質改善に向いています。
比較まとめ|どちらを選ぶべきか?
項目 | 大黄甘草湯 | 麻子仁丸 |
---|---|---|
適応タイプ | 実熱便秘(体内に熱) | 陰虚・虚秘(潤い不足) |
構成生薬 | 大黄、甘草 | 麻子仁、杏仁、芍薬、枳実、厚朴、大黄 |
即効性 | 高め(下痢に注意) | 穏やか(継続服用で改善) |
主な使用者 | 若年〜中年、実証体質 | 高齢者・産後・虚弱体質 |
私の現場からのアドバイス
薬局では「市販の便秘薬ではお腹が痛くなる」「自然に出したい」というご相談を多くいただきます。そのときに重要なのは、便秘のタイプを見極めることです。
単に「出す」ことよりも、「出せる状態」をつくることが漢方の強み。毎日続けやすい方剤でリズムを整えることが、便秘との付き合い方を変えてくれます。
便秘タイプ診断や、方剤の調べ方も活用を
あなたに合う方剤が、きっとあります。