🫃胃もたれ・胃痛は“肝”のせい?中医内科学で読む「胃脘痛」と証型治療
🧭 導入:胃が痛む原因は「胃」だけではないという話
「ストレスがあると胃がキリキリする」
「食べすぎでもないのに胃が重くてスッキリしない」
「検査では異常なし。でも胃薬が手放せない」
—— そんな“原因不明の胃の不調”に悩まされていませんか?
西洋医学では、こうした症状は「機能性ディスペプシア」とされ、
明確な器質的異常がないにもかかわらず胃痛・胃もたれ・不快感が続く状態とされます。
中医学ではこうした不調を「胃脘痛(いかんつう)」と呼び、
単なる消化の問題ではなく、肝・脾・胃・情志・冷え・虚弱などの要因が複雑に絡み合う“全身の不調の現れ”として診ていきます。
本記事では、中医内科学における胃脘痛の考え方をもとに、
その病因・病機・証型・治法・セルフケアまでをわかりやすく整理していきます。
📘 胃脘痛とは|中医学における定義と範囲
胃脘痛とは、中医学において心窩部(みぞおち)周辺の痛みを指す病証で、
「脘」は上腹部を意味し、胃の領域全体を含みます。
この痛みは、一時的な違和感から激しい痛みまで幅広く、
食後・空腹時・感情変化・気候変動などによって増悪する傾向があり、
その背景にある原因(病因病機)を「証」として分類するのが中医学的なアプローチです。
一般的な西洋医学の疾患で言えば、以下のような状態が胃脘痛に該当します:
- 機能性ディスペプシア
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- ストレス性胃痛
- 胃アトニー・胃下垂など
🔬 病因・病機|“食べすぎ”以外の原因をどう捉えるか?
中医学では、胃脘痛の原因は単なる「飲食過多」だけでなく、情志失調・外邪侵入・体質虚弱など、多くの要素が絡み合って発症すると考えます。
以下に代表的な病因とその病機を整理します。
🍽 飲食不節(食べすぎ・冷飲・不規則な食習慣)
- 飲食過多や暴飲暴食により、脾胃の運化機能が失調
- 食滞・痰湿・湿熱が発生し、胃気の降濁を妨げて痛みを生む
💢 情志内傷(ストレス・抑うつ・怒り)
- 情緒変動により肝気が鬱結し、肝脾不和・肝胃不和の状態に
- 気滞による疏泄不利が胃脘部の痛みや膨満感を引き起こす
❄️ 寒邪侵入(冷たい飲食・寒冷環境)
- 寒邪が中焦に侵入し、気血の流れを阻害して刺痛を生む
- 冷えにより脾胃陽気が損なわれ、胃陽虚となって機能が低下
🪫 脾胃虚弱(慢性的な疲労・体質虚弱・加齢)
- 脾気虚により運化・昇清が低下し、気滞や湿濁が内生
- 胃陰虚により胃腑に潤いがなくなり、灼痛や灼熱感を伴う
🩸 瘀血内阻(慢性炎症・潰瘍の遺残)
- 長期にわたる気滞・寒凝・食滞が瘀血化
- 血行不順により固定性の刺痛、夜間痛、暗紫舌などの症候が現れる
🧩 病機のまとめ
- 胃脘痛の基本病機は「胃気不和」「胃失和降」
- 気滞・寒凝・湿濁・食積・血瘀・陰虚などが主な病理要因
- 肝・脾・胃・腎の失調が相互に関与しやすい
🩻鑑別診断|“胃痛”と“腹痛”は違う?
中医学では、痛みの部位・性質・時間帯・随伴症状などに基づき、「胃脘痛」「腹痛」「胸脇痛」などを明確に分類します。
ここでは、特に“胃の痛み”とされる症状に対して、鑑別すべき病証を整理します。
🔎 胃脘痛 vs 腹痛
- 胃脘痛:心窩部(みぞおち)を中心とする痛み。上腹部。
- 腹痛:臍周囲や下腹部を中心とする痛み。主に小腸・大腸領域。
🔎 胃脘痛 vs 胸脇痛
- 胸脇痛:肋骨下部~脇腹の痛み。肝胆経に属する証が多い。
- → 胃脘痛と肝気犯胃は混同されやすく、発生部位に注意。
🔎 胃脘痛 vs 心悸・胸痺
- 心悸・胸痺:胸部中央に圧迫感、疼痛、動悸など。心陽不足や痰濁内阻による。
- → みぞおち付近の痛みと胸部の刺痛は鑑別が重要。
📍 鑑別のポイント
- 部位の違い(心窩部・臍部・胸部・側腹部)
- 痛みの性質(刺痛・鈍痛・灼熱感・冷痛)
- 誘因(食後・空腹・季節・感情変動)
- 随伴症状(悪心、嘔吐、食欲不振、口渇、寒熱)
🧪治法と方剤|証ごとの治療戦略
中医学においては、胃脘痛を訴える患者に対して「どの証型に当たるか」を弁別し、それに応じた治法と方剤を用います。
以下に代表的な証ごとの対応をまとめます。
🧾 1. 食滞胃脘
- 治法:消食導滞、和胃止痛
- 代表方剤:保和丸、枳実導滞丸
🧾 2. 肝気犯胃
- 治法:疏肝理気、和胃止痛
- 代表方剤:柴胡疏肝散、半夏厚朴湯
🧾 3. 寒邪犯胃
- 治法:温中散寒、理気止痛
- 代表方剤:良附丸、呉茱萸湯
🧾 4. 脾胃虚寒
- 治法:温中健脾、和胃止痛
- 代表方剤:理中丸、香砂六君子湯
🧾 5. 胃陰虚
- 治法:養陰益胃、和中止痛
- 代表方剤:益胃湯、沙参麦門冬湯
🧾 6. 瘀血停胃
- 治法:活血化瘀、理気止痛
- 代表方剤:失笑散、丹参飲
🩺 現代疾患との比較|ディスペプシアや胃炎との関係
中医学と西洋医学では、同じ「胃の不調」でもその捉え方に大きな違いがあります。
ここでは、現代医学で診断される胃疾患を中医内科学ではどう位置づけるか、対応関係を比較します。
📊 機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia)
- 西洋医学:胃痛・胃もたれ・早期飽満感など、明確な器質的異常なし
- 中医学対応:肝気犯胃、脾胃虚弱、胃陰虚、食滞胃脘など
📊 慢性胃炎
- 西洋医学:胃粘膜の炎症、ヘリコバクター感染や刺激物摂取による
- 中医学対応:湿熱中阻、脾胃虚弱、瘀血停胃
📊 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 西洋医学:胃酸過多やストレス、ピロリ菌などによる粘膜障害
- 中医学対応:胃陰虚、肝気犯胃、血瘀内停
📊 胃アトニー・胃下垂
- 西洋医学:胃の運動低下や筋力の低下による胃の下垂
- 中医学対応:脾気虚・中気下陥・胃失和降
🔍 中医学ならではの視点
- 「胃が痛む=胃の病」とは限らず、肝気鬱結・脾虚・腎陽虚など他臓腑の関与を重視
- 同じ“胃の不調”でも、寒熱・虚実・陰陽によって治療方針が大きく異なる
- 患者の体質・生活環境・感情要因まで含めた診立てが可能
🌿薬膳・ツボ・日常養生による胃のケア
中医学では、胃の不調は“食”や“感情”の積み重ねによって起こると考えます。
そこで、以下のような薬膳・ツボ・生活習慣を通じて、日常的にケアしていくことが大切です。
🥣 薬膳でのケア
- 山芋・かぼちゃ:脾胃を補い、胃の運化機能を助ける
- 陳皮(ちんぴ):気の巡りを良くして、食滞やゲップを改善
- ショウガ:寒邪による胃痛に効果。温中散寒の代表食材
- なつめ:脾胃の気を補い、ストレス由来の胃痛にも適応
- ハトムギ:湿を取り、消化を助ける(脾虚のむくみにも有効)
💡 ツボでのケア
- 中脘(ちゅうかん):胃の中心。消化不良や胃もたれに効果的
- 足三里(あしさんり):脾胃を補う万能穴。胃腸虚弱や食欲不振に
- 内関(ないかん):ストレス性の胃痛や嘔気に。肝胃不和タイプ向け
🧘 養生のポイント
- 冷たいもの・生ものの摂りすぎに注意
- 規則正しい食事と睡眠のリズムを整える
- よく噛んでゆっくり食べる(“脾”を助ける)
- 感情を抑えず、うまく発散する(特に肝気犯胃の予防)
- 慢性的な疲労には胃腸を休める日を設ける(断食ではなく軽食)
📝 まとめ|“胃の声”に耳を傾け、自分の体質を知る
「胃が痛む」「もたれる」「なんとなく不快」——
そんな日常の小さな不調を、ただの消化不良として見過ごしていませんか?
中医学では、これらの症状を胃脘痛と捉え、脾・胃・肝・腎・感情・生活習慣のすべてが関わる“全身のサイン”と考えます。
食べすぎだけでなく、ストレス、冷え、虚弱体質など、一人ひとり異なる背景があり、
それに応じた治療法・養生法・セルフケアがあるというのが中医学の魅力です。
今回の記事では、病因・病機・証型・治法・鑑別・現代医学との比較・セルフケアまでを体系的にご紹介しました。
「自分の体質に合ったケアをしたい」「胃薬に頼る生活を卒業したい」という方は、まずは自分の証型を知ることから始めてみてください。
胃は“感情”と“習慣”の影響を強く受ける臓腑です。
だからこそ、自分自身の生活と向き合いながら、胃の声に耳を傾けることが、最も根本的なケアにつながるのです。