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“中医学的診察所見”をカルテにどう記録・共有するか──EMR連携技術
中医学において診断の根幹をなす「四診法(望診・聞診・問診・切診)」は、現代医学のカルテ記載とはアプローチが異なります。電子カルテ(EMR)を用いる医療機関において、中医学的診察所見を適切に記録・共有するためには、形式と構造を明確にする必要があります。
1. 中医学における診察所見の基本構造
中医学の診察法は、四診法に基づき以下の情報を収集します:
- 望診:顔色、舌、体型、動作、皮膚・爪など視覚情報
- 聞診:声のトーン、呼吸音、口臭、体臭など
- 問診:自覚症状、冷熱、発汗、食欲、大便・小便、睡眠、月経、既往歴など
- 切診:脈診、腹診、圧痛、冷感、硬結など
2. 診察所見のカルテ記載例(EMR)
現行のSOAP形式に準じた記載法に、中医学の情報を「所見の詳細」または「別項」に追加する形式が推奨されます。
📌 記載テンプレート例
【四診所見】 望診:顔色やや青白、舌質淡胖・歯痕、舌苔白滑 聞診:話し声小さく、口臭なし 問診:倦怠感、食欲不振、便溏傾向、四肢冷感あり 切診:脈細弱、両寸やや無力 【中医診断】 証型:脾陽虚証 病因病機:脾気不足→運化障害→寒湿内盛 弁証分類:八綱=虚・寒/臓腑=脾/気血津液=気虚/病因=内傷飲食 【治法】 温中健脾・利水除湿 【方剤】 真武湯加味(附子3g、茯苓5g、生姜4g、白朮4g、芍薬3g+陳皮2g)
3. EMRへの統合の実際
多くの電子カルテシステム(ORCA、HOPE、MegaOak、Medicomなど)はカスタムテンプレートの登録が可能です。上記テンプレートを「中医学所見」欄や「漢方所見」フォルダとして設置することで、担当医・主治医・チーム医療間での共有が円滑になります。
また、PDF出力・データエクスポート(CSV)を通じて学術研究・多施設連携にも応用可能です。
4. 医療チーム内での活用と注意点
- 患者説明時には「冷え」や「胃腸虚弱」などの一般語訳を併記する
- 弁証分類は標準分類コード(ICDに準じる形で)とリンクさせる
- 保険適用処方との整合性を意識する:例)真武湯=ツムラNo.38
5. 中医診察テンプレートをPDF化+共有する
あらかじめ四診項目と弁証分類を網羅したテンプレートを作成し、診察後の記録をカルテ記載と並行してPDF化しておくと、患者への情報提供、次回診療の比較、チーム内教育にも効果的です。
例:「中医診察記録2025年5月・診療No.0123」などで出力・保存。
まとめ
中医学的所見は、現代医療のカルテ記載と相反するものではなく、むしろ患者の「未病」や「病機」に対する深い視座を与える補完的ツールです。適切な記録と共有によって、漢方診療がチーム医療の中で一層有効に活用されることが期待されます。
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シリーズ: 医師・薬剤師向け記事シリーズ