60代男性/高血圧と不眠の併存に対する漢方アプローチ
「夜中に何度も目が覚める」「眠れないまま朝を迎える」──その一方で血圧は高め。
西洋医学的には「睡眠障害と高血圧の合併」として治療されることが多いですが、中医学では心と腎のアンバランスが一因と考えられています。
今回は、60代男性の実際の症例を元に、漢方的な視点から「高血圧+不眠」にどうアプローチするかをご紹介します。
症例紹介:60代男性の主訴
この男性は、定年後も週に数日働く60代の方。主訴は以下のとおりです:
- 夜中に2〜3回目が覚める(中途覚醒)
- 入眠に30分以上かかる
- 目が覚めた後はなかなか寝つけない
- 血圧は上が150〜160mmHgで推移(降圧薬を服用中)
- 日中の頭重感、肩こり、イライラもあり
さらに話を聞くと、以下の背景がありました:
- 退職後の生活リズムの乱れ
- 仕事と家庭の板挟みによるストレス
- 寝酒や夜のスマホ使用の習慣
中医学での見立て:「心腎不交」と「陰虚陽亢」
この方の状態は、中医学では「心腎不交(しんじんふこう)」+「陰虚陽亢(いんきょようこう)」という証に相当します。
① 心腎不交とは?
「心は神(精神)を主り、腎は精(エネルギーの源)を蓄える」
心と腎の連携が崩れると、不眠・動悸・不安などが起こるとされます。
② 陰虚陽亢とは?
体の陰分(水分・潤い)が不足し、陽気(熱や興奮)が抑えられずに頭が熱くなる状態。
高血圧や不眠、のぼせ、イライラに典型的です。
処方選定:心を落ち着け、腎を補う
この症例においては、単に「眠れるようにする」だけでなく、
「根本からバランスを整える」ことが漢方治療の核となります。
使用処方:
- 天王補心丹(てんのうほしんたん):心血・心陰を補い、精神安定を促す
- 瀉火補腎丸(しゃかほじんがん):陰虚火旺の体質に対応。腎陰を補い、陽気を抑える
構成と働き:
- 天王補心丹:当帰・地黄・酸棗仁・五味子・柏子仁など → 心陰補益・鎮静作用
- 瀉火補腎丸:知母・黄柏・地黄 → 陰虚火旺に対応、上半身ののぼせや不眠に
この組み合わせにより、興奮した神経を鎮めつつ、腎から根本的に支える構成となっています。
服用後の経過と変化
- 2週間後:中途覚醒の回数が1〜2回に減少。寝付きも改善。
- 1か月後:睡眠の質が安定。朝の目覚めも快調に。
- 2か月後:肩こり・頭重感の頻度が減り、血圧も安定気味に。
本人からは「眠れるようになったことで、日中のストレスが減り、血圧の波も安定してきた」との報告あり。
また、寝酒をやめたことも大きな転機となりました。
補足:高血圧・不眠に使われる漢方例
その他の体質に応じて、以下のような方剤も適応されます:
- 柴胡加竜骨牡蛎湯:ストレス過多・交感神経緊張タイプ
- 加味帰脾湯:胃腸虚弱+精神疲労による不眠
- 黄連阿膠湯:熱感・のぼせ・口渇がある陰虚タイプ
まとめ:眠れない夜には“証”を見直して
高血圧も不眠も、体の内側のバランスが崩れて現れる“サイン”です。
表面的な症状ではなく、「証」を見極めることで、体質そのものを改善する糸口が見えてきます。
「薬を増やしたくない」「根本から整えたい」とお考えの方は、
ぜひ一度、「相談する」ページよりお気軽にご相談ください。