高血圧は薬だけでは整わない?生活と体質から考える時代へ
「血圧が高いですね」──そう言われてから、長年降圧剤を飲み続けている方は多いのではないでしょうか?
高血圧は自覚症状が少ないため、“数値だけがひとり歩きする病気”ともいえます。血圧の数値ばかりを追いかけ、薬での対処に終始するあまり、体質の乱れや生活習慣の歪みが見落とされてしまうこともしばしば。
そんな中、近年注目されているのが「中医学(東洋医学)」の視点です。中医学では、高血圧をただの「数値の問題」としてではなく、体内バランスの乱れによる“結果”と捉えます。
この記事では、現代医学と中医学の両方の視点から高血圧を見つめ直し、体質別の漢方アプローチや薬膳・生活習慣改善までを一貫してご紹介します。
現代医学での高血圧の定義・治療法と課題
現代医学において「高血圧」とは、一般に収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上が継続して観測される状態を指します。
高血圧は日本人の3人に1人が抱えるとされ、心筋梗塞や脳卒中、腎不全などのリスク要因となる“サイレントキラー”とも呼ばれます。
現代医学における主な治療方針:
- 薬物療法(Ca拮抗薬、ACE阻害薬、利尿薬など)
- 塩分制限(1日6g未満)・食事療法(DASH食)
- 運動療法(有酸素運動の継続)
- ストレスコントロール・禁煙・節酒
いずれも科学的根拠に基づいた確立された方法であり、多くの命を救ってきました。
しかし一方で、「薬は飲んでいるのに、頭が重い・顔がのぼせる・夜に目が冴える」など、数値に現れない不定愁訴を訴える人も少なくありません。
そこで注目されているのが、中医学のような“体質”に着目した補完的アプローチです。
中医学ではどう捉える?高血圧=本態性高血圧とは
中医学では、「高血圧」という病名そのものはありません。
しかし、現代医学でいう“本態性高血圧”は、「眩暈(めまい)」「頭痛」「のぼせ」「動悸」などの諸症状をもつ一連の証候群として扱われます。
原因とされるのは以下のような体質的・内因的要因です:
- 肝陽上亢:怒りやストレスで肝気が上昇し、陽気が上に偏る(のぼせ・頭痛・怒りっぽい)
- 陰虚火旺:陰液の不足により内熱がこもる(寝汗・口渇・手足のほてり)
- 痰濁中阻:水湿代謝の乱れで痰が溜まり、めまいや頭重を引き起こす
- 気血両虚:慢性疲労・食欲不振による虚弱状態での血圧不安定
このように中医学では、「なぜ血圧が高くなったのか」を五臓六腑の機能失調や気血水のアンバランスから捉え、その人の証に応じて治療方針を立てます。
体質分類からみた高血圧のタイプと症状
1. 肝陽上亢タイプ
特徴:頭痛・目の充血・怒りっぽい・のぼせ・肩こり
2. 陰虚火旺タイプ
特徴:口が乾く、寝汗、手足のほてり、耳鳴り、便がかたい
3. 痰濁中阻タイプ
特徴:頭が重い、めまい、胸苦しさ、痰が多い、体が重だるい
4. 気血両虚タイプ
特徴:ふらつき、動悸、顔色が白い、息切れ、食欲不振
これらを見極めることで、同じ“高血圧”であっても、対処すべき原因と処方は大きく異なります。
方剤で整える高血圧の証タイプ別アプローチ
■ 肝陽上亢タイプに
- 天麻鉤藤飲:肝陽を抑え、めまいや頭痛を改善
- 釣藤散:高血圧による頭重・肩こりに
■ 陰虚火旺タイプに
- 滋陰降火湯:陰液を補いながら虚火を鎮める
- 知柏地黄丸:六味地黄丸+知母・黄柏で内熱を冷ます
■ 痰濁中阻タイプに
- 半夏白朮天麻湯:痰湿+めまい+中焦虚をまとめて対応
- 温胆湯:胆の痰熱を除き、頭のモヤモヤを改善
■ 気血両虚タイプに
- 補中益気湯:疲れやすく血圧が上下する人に
- 十全大補湯:冷え性で元気が出ない虚証タイプに
薬膳と生活習慣で補う体質ケア:五味・五性・経絡の視点から
● 肝陽上亢タイプ
- 避けたい:アルコール・刺激物・夜更かし
- 取り入れたい:菊花、セロリ、苦瓜、ミント、緑茶
● 陰虚火旺タイプ
- 避けたい:スパイス・辛味・過労
- 取り入れたい:白きくらげ、百合根、麦門冬、れんこん
● 痰濁中阻タイプ
- 避けたい:脂っこいもの・乳製品・甘味
- 取り入れたい:はとむぎ、大根、こんにゃく、山楂子
● 気血両虚タイプ
- 避けたい:冷えすぎる食事・無理な断食
- 取り入れたい:鶏肉、なつめ、にんじん、高麗人参
まとめ|数値ではなく“整える習慣”へ:中医学的生活養生のすすめ
高血圧は「数値を下げること」がゴールではありません。
それ以上に、体質そのものを整える習慣をつくることが、中医学の大切な視点です。
怒りっぽさ・ストレス・食生活の偏り・睡眠の乱れ──
それらが少しずつ体のバランスを崩し、結果として“高血圧”という状態を作り出しているのかもしれません。
この記事でご紹介した「証」の見立て、「方剤」「薬膳素材」は、その改善の第一歩になります。
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血圧の裏にある「体の声」に耳を傾けてみませんか?