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左帰丸|虚熱・寝汗・精力低下に──腎陰虚を本質から養う“補腎陰”の本格処方
ほてり、寝汗、口渇、不眠、眩暈、遺精、疲れやすい──それらは「腎陰虚」のサインかもしれません。
左帰丸(さきがん)は、そうした“陰の消耗”を根本から補う、腎陰を中心とした滋陰補精の代表処方です。
本記事では薬剤師向けに、構成・証・製剤比較・服薬指導・他処方との違いまで包括的に解説いたします。
🧠 処方名の由来
「左帰」とは、陰を司る“左腎(=腎陰)”に精血を帰して補うという意から。
精・血・陰が不足し、“火が上がりやすくなった体質”に対して、陰の源を養う意味を持ちます。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:左帰丸(さきがん)
- 出典:『景岳全書』(明代)
- 分類:滋陰補腎剤
- 構成生薬:熟地黄、山茱萸、山薬、枸杞子、菟絲子、鹿角膠、龜板膠、牛膝
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
- 熟地黄+山茱萸+山薬:補腎精・滋陰
- 枸杞子+菟絲子:補肝腎・益精血
- 鹿角膠+龜板膠:填髄・補陰陽
- 牛膝:通絡・引薬下行
滋陰+益精+補髄を併せ、陰虚の“本”にアプローチする設計です。
🔬 配合理論と証の成立
- 君薬:熟地黄(補腎精)
- 臣薬:枸杞子・山茱萸・龜板膠(滋陰補肝腎)
- 佐使薬:菟絲子・鹿角膠・山薬・牛膝
- 証型:腎陰虚+精血不足+虚熱(五心煩熱・寝汗・口渇・不眠)
📌 証と適応判断
- 適応:寝汗、のぼせ、ほてり、耳鳴り、腰膝のだるさ、不妊、性欲減退、易疲労、めまい、不眠
- 舌:紅・乾燥・裂紋あり/脈:細・数・無力
- NG:実熱証・腎陽虚・寒証が強い体質
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本国内では保険収載がなく、主に煎じ薬・中医処方としての扱いが一般的です。
中医臨床では腎陰虚を基盤とする不妊症、更年期障害、虚熱疾患の標準方として重視されています。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- 医療用:ツムラ・クラシエなど大手製剤なし(保険未収載)
- 中医漢方薬局:煎じ薬・エキス処方として取り扱い可能
- OTC:日本国内での市販は限定的。中医通販サイト等に流通事例あり
※図解トリセツ・PMDA・製薬会社公式サイトにて確認(2024年時点)
💊 副作用と注意点
- 滋養性のため胃もたれ・軟便などが出る可能性あり
- 陰虚に見えても痰湿傾向があると逆効果の懸念
- 冷えが強い陽虚型には誤用注意(右帰丸との鑑別要)
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 右帰丸:腎陽虚・冷え・性機能低下向け
- 六味丸:腎陰虚だがやや軽度/熱感や排尿異常主体に
- 知柏地黄丸:六味丸+知母・黄柏で明確な虚熱を抑制
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「体が火照る」「寝汗をかく」「疲れやすい」「落ち着かない」など陰虚の特徴を丁寧に説明
- 数週間〜数ヶ月で“静かに整う”感覚のある処方であると伝える
- 生活養生:夜更かし・冷飲・性疲労・心労を控えることも支援材料に
🧾 使用例と処方医の意図
- 不妊:腎精不足による排卵障害や月経不調
- 更年期:のぼせ・寝汗・情緒不安定・虚熱感
- 慢性疾患後の虚熱体質・慢性疲労症候群への応用
🔚 まとめ|腎陰を本から補い、虚熱を鎮める補陰処方の柱
左帰丸は、腎陰虚・精血不足によって起こるほてり・寝汗・性機能低下・不妊・疲労感に対し、本質的な滋陰補腎を通じて身体の静を取り戻す処方です。
陰虚の正しい見極めとともに、養生・服薬継続の支援が必要とされる処方でもあり、薬剤師の説明力と継続支援が成果に直結します。