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酸棗仁湯|不眠・焦燥・疲労に──“心血不足”を癒すやさしい安神処方
眠れない、夢が多い、疲れているのに寝つけない──それは「心血虚」による不眠かもしれません。
酸棗仁湯(さんそうにんとう)は、そうした“疲れて眠れない”タイプの不眠に対応する、養心安神・補血安眠の代表処方です。
本記事では、薬剤師向けに構成・証・鑑別・服薬指導・製剤比較・応用まで、網羅的に解説いたします。
🧠 処方名の由来
「酸棗仁」は、安神・鎮静作用を持つ主要生薬。
本方はその酸棗仁を中心とした、不眠と心身疲労に対応する古典的処方であり、名前にもそれが反映されています。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:酸棗仁湯(さんそうにんとう)
- 出典:『金匱要略』
- 分類:養心安神剤/補血安眠方
- 構成生薬:酸棗仁、知母、茯苓、川芎、甘草
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
- 酸棗仁:養心安神・止汗
- 知母:滋陰・清虚熱
- 茯苓:安神・健脾・利湿
- 川芎:活血・養肝・疏気
- 甘草:緩和・調和・補気
「心血虚+陰虚火擾」の病態に対し、補・清・調のバランスをとった配合です。
🔬 配合理論と証の成立
- 君薬:酸棗仁(安神・補肝血)
- 臣薬:知母・川芎(清熱・活血)
- 佐使:茯苓・甘草(健脾・調和)
- 証型:心血虚+陰虚による心神不寧・虚熱擾心
📌 証と適応判断
- 適応:疲れているのに眠れない、不安・多夢、焦燥感、心悸亢進、神経過敏、情緒不安
- 舌:紅・乾燥・裂紋あり/脈:細・数・無力
- NG:実熱・肝鬱火旺・痰湿体質(眠れないが体力ありすぎるタイプ)
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本では虚弱体質の不眠や、高齢者・更年期の不安神経症などに応用されることが多い。
中医学では「虚して眠れない」心血・心陰不足証の典型方剤として、うつ・不安障害の身体虚証パターンに広く用いられる。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- ツムラ:52番「酸棗仁湯エキス顆粒(医療用)」
- クラシエ:医療用・OTC(第2類)あり
- 小太郎:丸剤タイプの製品も存在
- OTC:一般市販薬として薬局・通販でも流通(クラシエなど)
💊 副作用と注意点
- 甘草:高用量連用による偽アルドステロン症に留意
- 知母:寒性強めのため冷え性や胃腸虚弱では慎重に
- 眠気:鎮静作用により日中の眠気を訴える場合あり
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 天王補心丹:心腎陰虚による不眠・焦燥に
- 帰脾湯:脾虚+心血不足。不安・疲労が主体のとき
- 柴胡加竜骨牡蛎湯:実証系の神経過敏・怒り・動悸などに
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「疲れているのに眠れない」「眠りが浅い」「夢で目が覚める」などの症状にマッチ
- 養生指導:夜間のスマホ制限、カフェイン摂取制御、心身のクールダウン習慣の指導と併用が効果的
- 効果実感:数日〜1週間で眠気、睡眠持続時間の改善が多い
🧾 使用例と処方医の意図
- 更年期障害:焦燥・不安・中途覚醒
- 高齢者の不眠:体力低下・虚証傾向の不安・抑うつに
- 神経症・パニック障害:過敏・疲労・睡眠障害の身体虚証に
🔚 まとめ|“疲れて眠れない”心血虚証に寄り添う、やさしい安神処方
酸棗仁湯は、「疲れているのに眠れない」「神経が張って寝つけない」といった心血虚・心神不寧の不眠に対して穏やかに作用する処方です。
強い鎮静ではなく、“養う”ことを重視した構造であり、継続的な安定感のある眠りの質向上が期待できます。
薬剤師としては、虚実鑑別に基づく提案、生活養生の併用、睡眠衛生指導と合わせた多面的支援が求められます。