目次
十全大補湯|虚弱・瘡瘍・術後回復に“気血温補”の完全補益処方
倦怠感、食欲不振、顔色不良、手足の冷え、貧血、慢性疾患──“気も血も弱っている”状態に全方位から働きかけるのが十全大補湯です。
本方は「八珍湯」に黄耆・桂皮を加えた気血双補+温補の本格的な滋養強壮方剤。
薬剤師として服薬指導や処方意図の理解、製剤の選択、副作用管理を行えるよう、構成・証・比較・適応までを包括的に解説します。
🧠 処方名の由来
「十全大補湯」は、“十全=完全補益”を意味する名称で、気血を八珍湯で補い、さらに黄耆・桂皮を加えて「衛外の強化・温陽」の効果を加えた強化型処方です。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
- 出典:『太平恵民和剤局方』
- 分類:補気養血・温陽補虚
- 構成生薬:人参、白朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬、川芎、熟地黄、黄耆、桂皮
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
- 人参+白朮+茯苓+甘草:補気健脾
- 当帰+芍薬+川芎+熟地黄:補血・養血・活血
- 黄耆+桂皮:温陽・固表・促進的作用
八珍湯を基盤に、温補・衛外強化・陽気を加えた構造。
🔬 配合理論と証の成立
- 相須:当帰×川芎×熟地黄(血の補充と巡り)
- 相使:黄耆×人参で外衛強化、桂皮で気の巡りを温める
- 相畏:甘草が桂皮・黄耆の温性を緩和
証型は気血両虚+陽虚・衛気不固+寒証です。
📌 証と適応判断
- 適応:疲労倦怠、貧血、食欲不振、冷え、顔色不良、月経過多、慢性疾患の衰弱期
- 舌:淡・白苔・潤/脈:沈・細・無力
- NG:実熱・湿熱・炎症・実証体質
📊 和漢製剤と中医学の違い
中医学では瘡瘍・潰瘍・がん治療後の支持療法に広く使われる“正気回復処方”。
日本では「術後・病後・高齢者の衰弱体質」に使われる滋養強壮剤の印象が強く、冷え症や貧血にも応用されます。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- ツムラ:48番(顆粒/エキス)
- クラシエ:高齢者虚弱向けに強調
- 小太郎:皮膚疾患・冷え対策としての表示あり
- OTC:第2類医薬品として市販されており、入手は比較的容易
💊 副作用と注意点
- 甘草:浮腫・高血圧に注意(長期使用)
- 桂皮:過敏体質・胃弱者には胃部不快感の可能性
- 熟地黄:湿気・粘膩性により胃もたれや軟便例あり
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 補中益気湯:脾虚中心、寒証・血虚が弱い場合
- 八珍湯:気血補益中心で、温補作用は弱い
- 人参養栄湯:より慢性疲労・安神・肺虚に重点
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「病後・術後・慢性疾患の倦怠・冷え・虚弱」に使われることを明確に
- 効果は2〜3週間でじわじわ現れることが多いと伝える
- 長期投与では甘草と熟地黄の副作用モニタリングを推奨
🧾 使用例と処方医の意図
- 術後や慢性疾患後の体力低下・虚弱回復
- 高齢者・がん患者の支持療法・疲労改善
- 冷え・貧血・月経過多など慢性失血症状の改善
🔚 まとめ|「補う+温める」を同時に実現する最上級補益処方
十全大補湯は、気血をしっかりと補いながら、身体を温め、体表を守り、全身の機能を底上げする方剤です。
術後、病後、慢性消耗、虚弱体質など、「生命力の土台を立て直す」用途に最適。
薬剤師としては、長期的な服薬の支援と、副作用の予防をバランスよく伝えることで、患者の“元気の素”を支えるパートナーとして信頼を得ることができる処方です。