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八珍湯|補気+補血の“定番中の定番”──疲労・虚弱・婦人科疾患に
倦怠感、貧血、不眠、月経不順、食欲不振──これらに共通するのは“気血両虚”。
その代表処方が八珍湯(はっちんとう)です。
本記事では、薬剤師として構成意図や服薬指導、副作用、製剤ごとの違いを的確に把握し、臨床で活かせるよう徹底解説いたします。
🧠 処方名の由来
「八珍」とは、四君子湯(補気)+四物湯(補血)の8つの主要生薬からなる構成を指します。
八つの“珍薬”で構成された贅沢な補益処方という意味が込められています。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:八珍湯(はっちんとう)
- 出典:『和剤局方』(宋代)
- 分類:補気養血・健脾補肝
- 構成生薬:人参、白朮、茯苓、甘草、当帰、川芎、芍薬、熟地黄
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
- 人参+白朮+茯苓+甘草:健脾益気(四君子)
- 当帰+川芎+芍薬+熟地黄:補血養血(四物)
脾胃の気を補うことで血の生化を助け、同時に血を養うことで全身の滋養と安神を実現します。
🔬 配合理論と証の成立
- 相須:人参×白朮/当帰×芍薬
- 相使:茯苓×甘草/川芎×熟地黄
- 証:気血両虚(舌:淡、苔薄白/脈:細弱)
📌 証と適応判断
- 適応:倦怠感、顔色不良、食欲低下、貧血傾向、不眠、月経遅延・過少、冷え、めまい
- 非適応:実熱、湿熱、痰湿、胃熱、実証傾向
📊 和漢製剤と中医学の違い
中医学では「気血不足・営衛不調」の婦人病・慢性疾患に使用され、日本では「体力低下・栄養不良・血色不良」への対応として汎用化されています。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- 医療用は無し:合方で対応。
- OTC:第2類医薬品として入手可能
💊 副作用と注意点
- 甘草:長期使用による偽アルドステロン症(浮腫・高血圧)
- 熟地黄:胃もたれ、軟便、湿を助長することがある
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 補中益気湯:気虚中心で昇提作用が必要なとき
- 帰脾湯:不眠・出血傾向を伴う心脾両虚のとき
- 十全大補湯:八珍湯+黄耆・桂皮で温補・外衛強化したいとき
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「元気が出ない」「顔色が悪い」「生理が遅れる」など、全体に弱っている訴えに
- 胃腸が弱い方には少量から様子見が推奨される
- 補益系であるため継続投与が基本(2〜4週間)
🧾 使用例と処方医の意図
- 月経不順・過少・不妊治療の基礎補益として
- 虚弱体質・疲労回復・術後の補助療法
- 高齢者・虚弱者の慢性疾患の支持療法
🔚 まとめ|“補気+補血”の古典的完成形
八珍湯は、補気剤+補血剤の組み合わせによる気血両虚証の標準処方であり、あらゆる補益処方の基礎として位置づけられます。
婦人科、内科、老年科を問わず使用頻度が高く、正しく証に合致すれば安定した効果が期待できる「万能型」の補剤です。
薬剤師としては、体質・訴え・副作用リスクを丁寧に評価しながら、継続的なサポートを提供できる方剤として扱う価値のある処方です。