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四君子湯|“脾を補う”すべての補気処方の基本方
食欲がない、疲れやすい、下痢しやすい、顔色が悪い──こうした“脾気虚”の体質に、最も基本的な処方が四君子湯です。
本方は中医学における補気健脾剤の原型であり、数多くの派生処方(六君子湯、補中益気湯など)の基礎となる方剤です。
本記事では、薬剤師として構成・証・使用例・副作用・製剤比較まで一貫して理解できるよう、13章構成で詳解いたします。
🧠 処方名の由来
「四君子湯」は、君子の徳を備えた4つの主薬(人参・白朮・茯苓・甘草)によって脾気を調えるという意味で名付けられました。
「君子」とは、中庸で穏やかに全体を調和する力を持つ者を指します。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:四君子湯(しくんしとう)
- 出典:『太平恵民和剤局方』
- 分類:補気健脾剤(脾胃虚弱)
- 構成生薬:人参、白朮、茯苓、甘草
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
- 人参:補中益気の君薬。脾胃を補い、元気をつける
- 白朮:健脾燥湿、脾胃機能の補助
- 茯苓:利水健脾、胃の停滞・むくみにも対応
- 甘草:調和諸薬、緩和補中、潤性の調整
この4味で脾胃の運化を助け、気を生化する力を高めます。
🔬 配合理論と証の成立
- 相須:人参×白朮、茯苓×甘草
- 相使:甘草が人参の作用を補助しつつ全体を調和
証型:脾気虚(舌:淡白、苔薄/脈:細・虚)
📌 証と適応判断
- 適応:倦怠感、食後の眠気、下痢しやすい、口数が少ない、声が小さい、消化力低下、顔色が悪い
- 非適応:実熱、痰湿、湿熱、実証の便秘
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本では“胃腸虚弱改善”の栄養剤的な位置づけで使われがちだが、中医学では「気の生化の根本=脾気」の回復に不可欠な処方とされ、あらゆる慢性疾患・虚証治療の基礎とされます。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- ツムラ:75番(医療用粉末/エキス)
- オースギ:錠剤タイプあり
- OTC:第2類医薬品として市販、高齢者用滋養強壮剤にも含有される
💊 副作用と注意点
- 甘草:高用量・長期使用により浮腫・高血圧の可能性(偽アルドステロン症)
- 人参:実熱・痰湿体質では胃のもたれや煩躁感を助長することあり
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 六君子湯:四君子湯+陳皮・半夏。胃内停水・食欲不振が強いとき
- 補中益気湯:気虚+昇提(内臓下垂・声枯れ・脱肛など)
- 参苓白朮散:四君子湯+山薬・蓮子肉などで下痢・湿邪対策が強化
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「体がだるくて食欲がない」「消化に時間がかかる」などの訴えが典型
- 効果実感は2〜4週間を目安に、「補剤は体質改善の一環」として案内
- 併用薬や体質を考慮し、甘草・人参の作用を説明
🧾 使用例と処方医の意図
- 高齢者の慢性下痢、栄養低下、食欲減退、脱力
- 小児・女性の食が細く疲れやすい体質
- 脾気虚が根底にある虚証全般のベース処方
🔚 まとめ|“脾気を立て直す”ための原点処方
四君子湯は、気を生み出す脾を健やかにし、全身の気血生化を根本から支える補気剤です。
多くの補剤がこの処方を基礎に加減応用されており、まさに「補剤の祖」といえます。
薬剤師としては、脾虚の特徴を見抜き、正確な指導と継続支援を通じて、患者の体質改善を支える重要な一歩として本方を活用してまいりましょう。