補中益気湯|“中(脾胃)を補い、気を持ち上げる”昇提の代表処方

補中益気湯|“中(脾胃)を補い、気を持ち上げる”昇提の代表処方

食欲不振、疲労、息切れ、発汗過多、内臓下垂──こうした“脾気虚”の症状に対応するのが補中益気湯です。
本方は単なる補気ではなく、中気を補い、気を引き上げる“昇提”作用を併せ持つのが最大の特徴です。
本記事では、薬剤師が服薬指導・処方意図・副作用・製剤の違いを理解できるよう、構成・証・鑑別処方まで包括的に解説します。

 

 

🧠 処方名の由来

「補中益気湯」とは、「中(=脾胃)を補い、気を益す」処方という意味です。
中焦(消化吸収の要)を中心に、気を引き上げ、疲労を回復させることを目的とした名称です。

 

 

📘 基本情報と構成生薬

  • 名称:補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
  • 出典:『内外傷弁惑論』(李東垣)
  • 分類:補気昇提剤・脾胃虚弱補益
  • 構成生薬:黄耆、人参、白朮、甘草、当帰、陳皮、升麻、柴胡、生姜、大棗

 

 

🔍 主治と治法

  • 主治中気下陥、内臓下垂、倦怠感、食欲不振、息切れ、自汗、発熱(微熱)、脱肛、子宮下垂、胃下垂
  • 治法補中益気・昇陽挙陥・健脾養気

 

 

🧪 ユニット構造と配合意図

  • 黄耆+人参+白朮+甘草:補中益気の中核(君薬)
  • 当帰:補血助気・血気同補
  • 陳皮:理気健脾
  • 升麻+柴胡:昇陽挙陥の要(補気+昇提)
  • 生姜+大棗:脾胃保護・薬力調和

全体で補気・昇提・健脾・調和を兼ね備えた精密な構成。

 

 

🔬 配合理論と証の成立

  • 相須:人参×黄耆/白朮×甘草
  • 相使:柴胡×升麻=昇陽の補佐
  • 証型:脾気虚・中気下陥・気脱未済

主に「補う」「持ち上げる」の両方向が成立条件です。

 

 

📌 証と適応判断

  • 適応:疲れやすい、食後眠くなる、胃腸の動きが弱い、脱肛、子宮下垂、日中の眠気、声が小さい、汗が止まらない
  • 舌:淡・歯痕・苔薄白/脈:虚・沈細
  • NG:実熱、陰虚火旺、痰湿過多タイプ

 

 

📊 和漢製剤と中医学の違い

中医学では「中気下陥」に対し、脱肛や子宮下垂などへの使用が明確。
日本では主に「疲労回復剤」「食欲不振」「夏バテ」「胃下垂傾向」「高齢虚弱体質」への使用が多い。

 

 

📦 製剤別の比較とOTC入手

  • ツムラ:41番(食欲不振・疲労倦怠・病後の体力低下)
  • クラシエ:顆粒・エキス剤あり
  • 小太郎:やや温補寄り、虚寒対策重視
  • OTC:第2類医薬品として入手可能。夏バテ用製品にも応用あり

 

 

💊 副作用と注意点

  • 甘草:長期使用による偽アルドステロン症に注意
  • 柴胡・升麻:体質により胃部不快・過剰な昇提作用に注意
  • 熱証傾向者:補気が熱を助長する恐れあり

 

 

🔁 他処方との鑑別・類方比較

  • 八珍湯:気血両補だが昇提作用なし。婦人科・不眠寄り
  • 人参養栄湯:補気補血+補肺安神。より全身倦怠向け
  • 六君子湯:痰湿・胃内停水・嘔気中心の脾虚

 

 

👨‍⚕️ 服薬指導のポイント

  • 「疲れが抜けない」「食後に眠くなる」「胃が下がる感じがする」などが典型訴え
  • 日中の脱力感・声の小ささ・汗が止まらない方には特に合う
  • 服用継続の中で、疲労感→食欲→集中力→体力の順で改善することを伝える

 

 

🧾 使用例と処方医の意図

  • 病後・術後の倦怠・虚弱体質に対する補気剤として
  • 高齢者の慢性疲労や活動性低下、夏バテ体質に
  • 内臓下垂(胃下垂・子宮脱)など挙陥証に明確に選択される

 

 

🔚 まとめ|中気を補い、全身を引き上げる“昇提の王道方剤”

補中益気湯は、気虚によるだるさ・食欲不振・下垂傾向など「脾気の下陥」を本質とする処方です。
ただ補うだけでなく、“持ち上げる”ことで活動性を回復させる設計が特徴です。
薬剤師としては、訴えの背景にある「中気の不全」を見抜き、無理のない継続を支援することで、患者様のQOL向上に貢献できる処方です。

 

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対象者: 薬剤師向け
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