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六味丸|補腎陰の基本処方──腎陰虚からくる“ほてり・疲労・尿トラブル”に
腰がだるい、足腰が重い、尿が近い、口が渇く、のぼせる──それは「腎陰虚」のサインかもしれません。
六味丸(六味地黄丸)は、そうした陰虚症状を全体から立て直す中医学の補腎陰剤の基本処方。
本記事では薬剤師向けに構成・証・副作用・服薬指導・製剤比較まで、1万字で網羅的に解説します。
🧠 処方名の由来
「六味丸(地黄丸)」は、構成する6つの生薬から名付けられました。
主薬の地黄を中心に、補陰・清熱・利水のバランスで腎陰を立て直す処方です。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:六味丸(ろくみがん/りくみがん)
- 出典:『小児薬証直訣』(銭乙)
- 分類:補腎陰剤
- 構成生薬:熟地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
- 熟地黄+山茱萸+山薬:補腎陰・補精血
- 沢瀉+茯苓+牡丹皮:瀉火・利湿・健脾
腎陰虚による虚熱や水分代謝の乱れを“補いながら清める”バランス設計です。
🔬 配合理論と証の成立
- 君薬:熟地黄(滋陰補腎)
- 臣薬:山茱萸(固精補肝腎)、山薬(健脾益腎)
- 佐薬:沢瀉・茯苓(利湿)、牡丹皮(清虚熱)
- 証型:腎陰虚(腰膝だるさ、五心煩熱、遺精、尿頻、口渇)
📌 証と適応判断
- 適応:口渇、尿が近い・熱感がある、耳鳴り、難聴、疲れやすい、足腰の無力感、寝汗、午後の微熱
- 舌:紅・少苔・乾燥気味/脈:細・数・無力
- NG:明らかな実熱・胃腸虚弱・下痢傾向がある人
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本では腎陰虚という概念の普及が浅く、八味地黄丸の補完または女性向け虚熱処方として使用される傾向にあります。
中医学では補腎陰の最基本方剤として、成長障害・不妊・尿失禁・更年期障害・糖尿病の基礎薬としても広く使われています。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- ツムラ:87番
- クラシエ:OTC製剤(六味丸・六味地黄丸)として販売あり
- 小太郎漢方製薬:丸剤製品あり
- OTC:第2類医薬品として市販。複数社から入手可能
※図解トリセツ・各社Web・PMDAにて確認済(2024)
💊 副作用と注意点
- 熟地黄:胃腸虚弱により軟便や胃もたれの報告あり
- 沢瀉・牡丹皮:冷え傾向がある方では胃腸機能を低下させる可能性
- 陰虚実熱との誤診に注意。体質評価が重要
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 八味地黄丸:腎陽虚対応、冷え・頻尿・むくみが強いとき
- 知柏地黄丸:六味丸+知母・黄柏で虚熱(陰虚火旺)を強く抑える
- 牛車腎気丸:八味地黄丸+通絡利水(しびれ・排尿障害)向け
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「ほてる」「だるい」「尿が近い」「寝汗が出る」方への説明に最適
- 2〜4週間の継続で「疲れにくくなった」「尿の熱感が減った」などの改善例あり
- 胃腸虚弱・冷え傾向が強い場合は慎重に案内
🧾 使用例と処方医の意図
- 小児:成長発育の遅れ、夜尿症、免疫虚弱
- 中高年:疲労感・尿トラブル・耳鳴り・視力減退・更年期
- 糖尿病:口渇・倦怠・足腰の無力感がある陰虚傾向のとき
🔚 まとめ|腎精・腎陰を養い、体内から“静かに整える”処方
六味丸は、腎陰虚によって引き起こされる「熱感」「疲労」「排尿トラブル」「耳鳴り」などに対応する滋陰補腎の基本方剤です。
派生処方も多く、虚熱のある方や女性・小児にも使いやすく、体内のバランスを静かに整える処方として長く使われています。
薬剤師としては、証の見極めとともに、「疲れをどう養うか」「どう整えるか」という長期的視点での提案が信頼を生みます。