竜胆瀉肝湯|肝火・湿熱による“赤くて痛い”症状に対応する清熱利湿の猛将
排尿痛、かゆみ、腫れ、湿疹、いらだち──赤く、熱く、痛く、炎症性の強い症状に使われるのが竜胆瀉肝湯です。
本方は肝経の実熱+下焦の湿熱を徹底的に捌く「清熱・瀉火・利湿」の処方であり、中医学でも現代日本の臨床でも汎用性の高い攻めの方剤。
本記事では薬剤師として、この処方の構成、証、鑑別、服薬指導、副作用、製剤比較、OTC入手法などを一貫して整理し、臨床に即した実践知として提供いたします。
🧠 処方名の由来|なぜ“瀉肝”なのか?
「竜胆瀉肝湯」は、君薬である竜胆草が処方名の起点であり、「肝経の火熱を瀉す」=瀉肝という治法を示しています。
肝経は下焦(泌尿・生殖器)や頭部(目・耳・怒り)とも関連が深く、肝火が旺盛になると熱や炎症が下部に現れやすいとされます。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
- 出典:『医学正伝』(陳自明)
- 分類:清熱瀉火・利湿通淋・鎮静
- 構成生薬:竜胆、黄芩、梔子、木通、沢瀉、車前子、生地黄、当帰、地黄、柴胡、甘草
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
- 竜胆+黄芩+梔子:肝火・湿熱の清瀉
- 木通+沢瀉+車前子:利尿通淋・下焦湿熱の排出
- 当帰+地黄+生地黄:陰血を補い熱傷をケア
- 柴胡:肝気の疏泄を助け、精神的いら立ちを緩和
- 甘草:調和・潤性の調整
🔬 配合理論と証の成立
中薬学の配伍において:
- 相須:竜胆×梔子=清熱瀉火の強化
- 相使:沢瀉×木通×車前子=利水利湿の相乗
- 相畏:甘草が竜胆の苦寒を緩和、当帰が瀉剤の消耗を補完
証型は「肝経実熱」+「下焦湿熱」+「気機不利」
📌 証と適応判断
- 適応証:炎症、腫れ、熱感、排尿障害、陰部の痒み、怒りやすい、赤ら顔
- 舌:紅・黄膩苔/脈:弦・数・滑
- NG症例:虚証、冷え性、血虚・陰虚の熱感なき症状
📊 和漢製剤と中医学の違い
中国:泌尿器系・生殖器系の炎症(尿路感染・前立腺炎・外陰部湿疹)に用いられ、瀉火・利湿中心の運用。
日本:肛門湿疹・皮膚疾患・排尿困難・便秘など広く応用。構成は共通だが、適応範囲に幅あり。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- ツムラ:84番(医療用、粉末・錠剤あり)
- クラシエ:顆粒・エキス錠(尿トラブル・皮膚疾患)
- 小太郎:瀉火作用強め、痒みに注目した表記
- OTC:第2類医薬品でクラシエ等から販売(頻尿・膀胱炎系中心)
💊 副作用と注意点
- 清熱薬による胃腸虚弱・腹痛・軟便
- 長期使用で冷え症状・陰虚の助長に注意
- 肝機能障害・発疹(報告稀だが注意喚起)
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 黄連解毒湯:上焦の強い実熱に対応。口内炎・発熱などに
- 五淋散:頻尿・残尿感・排尿痛があるが熱象が弱い場合
- 清心蓮子飲:心腎不交・不眠・ストレス+排尿異常を伴うとき
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「熱がこもって赤くて痛い症状」に対する強めの漢方薬であると説明
- 冷え性・胃腸虚弱者には副反応出やすいため慎重な服用を促す
- 1〜3日で排尿痛や痒みが軽減する実感を得やすい処方
🧾 使用例と処方医の意図
- 膀胱炎、排尿時の痛み、尿のにごり
- 陰部・肛門湿疹、皮膚の熱感と赤み
- 便秘+怒りっぽさ+月経異常など肝鬱・肝火系の多症状
処方医は「明確な炎症+熱証の体質+比較的体力のある患者」を対象に本方を選択します。
🔚 まとめ|“火と湿”を的確に捌く清瀉の本格派
竜胆瀉肝湯は、熱・痛・腫・痒といった明確な炎症所見に対応する瀉剤であり、虚証傾向の処方とは一線を画す構成です。
適応証の判断さえ誤らなければ、排尿トラブル・陰部トラブル・怒りっぽさを伴う皮膚症状など幅広く対応可能です。
薬剤師としては、熱証の見極めと、副作用を予防する「体質確認と併用薬の注意喚起」が最重要。正しく使えば、まさに“清熱の即効薬”として信頼される一方、誤用には冷え・消耗のリスクが伴います。