半夏厚朴湯|喉の詰まり・不安・咳に──“気の逆上”をほどく方剤

半夏厚朴湯|喉の詰まり・不安・咳に──“気の逆上”をほどく方剤

「喉が詰まる感じがする」「咳が続くけれど、器質的な異常がない」「不安で息が詰まる」──そんな症状に使われるのが半夏厚朴湯です。
本方は、気の流れ(気機)の停滞=気滞と、それに伴う痰の停滞や精神的緊張をゆるやかに解きほぐす処方。
本記事では、薬剤師が服薬指導・提案・処方意図の理解に活かすために、構成・証・製剤差・副作用・適応判断・鑑別まで網羅的に解説します。

 

 

🧠 半夏厚朴湯という名前の由来

方剤名は「半夏」と「厚朴」の2味が中心となることから命名されています。
半夏は痰を捌き、咳や吐き気を止める中薬であり、厚朴は胸腹部の張り・気滞・咳を下げる作用を持ちます。

 

 

📘 基本情報と構成生薬

  • 名称:半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
  • 出典:『金匱要略』(肝気鬱結門)
  • 分類:理気剤・気滞痰阻・宣通気道・安神
  • 構成生薬:半夏、厚朴、茯苓、生姜、紫蘇葉

 

 

🔍 主治と治法

  • 主治梅核気(咽中に異物感)、神経性咳嗽、不安、不眠、嘔気、気滞症候
  • 治法理気降逆、燥湿化痰、和胃安神

 

 

🧪 ユニット構造と配合意図

  • 半夏+厚朴:痰飲と気滞の中核にアプローチ
  • 茯苓+生姜:健脾・燥湿・胃気を整える
  • 紫蘇葉:気を巡らせ精神的緊張を和らげる

全体として「痰+気滞」を同時に改善する構成。紫蘇葉の使用は精神的な緊張緩和にも貢献します。

 

 

🔬 配合理論と証の成立

  • 相須:半夏+厚朴=痰気の相互強化
  • 相使:茯苓+生姜=脾胃の調整、痰の再発防止
  • 相畏:紫蘇葉が気滞を緩和して副反応を抑制

証型は「気滞痰阻」+「脾虚湿盛」+「気逆」。感情的緊張や咽中異物感が特徴です。

 

 

 

📌 証と適応判断

  • 適応証:梅核気(喉の詰まり)、不安・緊張による咳、胃部不快感、咳嗽・咽喉違和感
  • 舌:白苔やや湿、苔薄腻/脈:弦・やや滑
  • NG例:強い実熱、潤燥症状、慢性虚証タイプ

 

 

📊 和漢製剤と中医学の違い

本方は『金匱要略』出典の中医古典方であり、日本ではツムラ16番として処方されることが多く、構成・適応はほぼ共通です。
ただし中医学臨床では、加味(加陳皮・甘草)や併用(小柴胡湯加桔梗)で運用幅を広げることもあります。

 

 

📦 製剤別の比較とOTC入手

  • ツムラ:16番(梅核気)
  • クラシエ:エキス錠・顆粒あり
  • 小太郎:構成に忠実で、適応表示は神経症寄り
  • OTC:クラシエ製品が第2類医薬品として市販(咽の詰まり・不安向け)

 

 

💊 副作用と注意点

  • 半夏:乾燥感、胃腸刺激、喉の違和感(過量時)
  • 厚朴:肝障害報告はまれにあり
  • 全体:やや温性処方で、熱感・ほてりがある方は慎重に

 

 

🔁 他処方との鑑別・類方比較

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯:怒り・実証・便秘+興奮の場合
  • 加味逍遙散:情緒不安・肝鬱中心ならこちら
  • 甘麦大棗湯:不安と動悸・虚証の心身症向け

 

 

👨‍⚕️ 服薬指導のポイント

  • 「のどが詰まる感じ」や「神経的な咳」によく処方されることを説明
  • 心因性の訴えで、検査で異常がないときにも選ばれる
  • 効果の実感は1〜3日で軽減が見られることが多い

 

 

 

🧾 使用例と処方医の意図

  • 咽頭異常感があるが、耳鼻科では異常なしとされた症例
  • 不安で喉が詰まりそう・咳が出る・息が浅いと訴える神経症傾向
  • 精神的緊張が強い人の咽喉不快やつかえ感

処方医は「心因性の咽喉症状+虚熱ではないこと+胃腸がしっかりしている」場合に本方を選ぶ傾向があります。

 

 

 

🔚 まとめ|気の巡りを整える“静かに効く”処方

半夏厚朴湯は、気滞による“見えない詰まり”を解きほぐす漢方薬です。
神経的な咳・喉の異物感・不安など、検査ではわからない症状に寄り添い、気の流れと痰湿を整えます。
精神的緊張が強い方へ、薬剤師として「体にも心にもやさしい処方です」と伝えられる一品です。

 

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対象者: 薬剤師向け
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