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麦門冬湯|空咳・咽乾・痰が少ない──“潤し補う”陰虚の乾咳に応える処方
咳が続く、喉が乾く、声がれが治らない──それは「陰虚肺燥」による乾咳かもしれません。
麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、そんな症状に対し、潤肺・益胃・止咳・化痰を兼ね備えた優しい処方です。
本記事では薬剤師向けに、構成・証・適応判断・製剤比較・服薬指導まで徹底解説いたします。
🧠 処方名の由来
主薬「麦門冬」は肺胃の陰を養い、乾燥を潤す薬草であり、本方の中心となるため、その名が冠されています。
咳止めというより“潤す”ことで咳を鎮める、補陰的止咳処方です。
📘 基本情報と構成生薬
- 名称:麦門冬湯(ばくもんどうとう)
- 出典:『金匱要略』(傷寒雑病論)
- 分類:滋陰潤肺・止咳剤
- 構成生薬:麦門冬、半夏、人参、粳米、大棗、甘草
🔍 主治と治法
🧪 ユニット構造と配合意図
潤しながら補い、胃腸機能も保護する“やさしさの処方”です。
🔬 配合理論と証の成立
- 君薬:麦門冬
- 臣薬:半夏・人参
- 佐薬:粳米・大棗・甘草
- 証型:陰虚肺燥、咳逆上気、痰少難出、声がれ、咽乾、食欲低下
📌 証と適応判断
- 適応:空咳、乾燥性咳嗽、声がれ、術後の喉ケア、喉の違和感、口渇
- 舌:紅・乾/脈:細・数
- NG:痰湿過多、寒湿・実熱のある咳、黄色い痰、大量の痰には不適
📊 和漢製剤と中医学の違い
日本ではツムラ29番などが“喉の乾燥・空咳”に広く使われており、風邪後の咳残りにも多用されます。
中医では「肺胃陰虚」における咳嗽に位置付けられ、胃液減少・食欲不振などへの応用も見られます。
📦 製剤別の比較とOTC入手
- ツムラ:29番(麦門冬湯エキス顆粒・医療用)
- クラシエ:医療用およびOTC両方あり(第2類医薬品)
- 小太郎漢方:丸剤・煎剤ベースで応用あり
- OTC:漢方薬局や通販にて市販入手可
💊 副作用と注意点
- 甘草:長期投与で偽アルドステロン症に注意(特に高齢者)
- 半夏:咽喉刺激・悪心が出やすいため過量禁忌
- 湿盛・寒咳・黄痰では悪化リスクがあるため鑑別必須
🔁 他処方との鑑別・類方比較
- 沙参麦冬湯:肺陰虚に特化、咳よりも喉乾燥に強い
- 滋陰降火湯:虚熱を伴う咳や咽痛が強いケースに
- 竹葉石膏湯:熱証が強く、体力低下後の咳に
👨⚕️ 服薬指導のポイント
- 「風邪は治ったのに咳が残る」「喉が乾く」「声がかすれる」などに好適
- 食後服用が推奨(胃粘膜保護と相性)
- 1週間で喉潤い・咳軽減、2〜3週間で安定化が多い
🧾 使用例と処方医の意図
- 乾燥性気管支炎・アレルギー性咳嗽
- 風邪後の咳残り(特に乾いた咳)
- 声がれ・咽喉炎・術後の喉ケア
- 乾燥が悪化要因となる高齢者の慢性咳
🔚 まとめ|“潤す”という選択──陰虚咳嗽に応える補潤止咳の決定版
麦門冬湯は、「補いながら止める」潤肺処方として、乾燥性の咳や喉の違和感に高い有用性を示します。
即効性はやや穏やかですが、体力低下後の咳・胃腸虚弱を含む患者に対して安全性の高い処方です。
薬剤師としては、咳の「質」や「痰の有無」を丁寧に聴取し、誤投与のない的確な案内が重要です。