当帰芍薬散 vs 桂枝茯苓丸|月経トラブルに使われる代表方剤の違い
月経痛・むくみ・冷え・生理不順…。
女性にとって月経周期にまつわる不調は、とても身近で、しかし個人差が大きい悩みの一つです。
漢方では、同じ「月経トラブル」でもその背景にある体質や症状の現れ方によって、選ばれる処方が異なります。
本記事では、特に処方頻度の高い二大方剤――
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)――の違いを、体質・証・症状の観点から徹底比較していきます。
1. 「月経トラブル」に使われる代表処方の役割
「生理の悩み=とりあえず当帰芍薬散か桂枝茯苓丸」といった選び方をしてしまいがちですが、それぞれの処方が対応する体質・証は全く異なります。
- 当帰芍薬散:体力がなく、むくみや冷えが目立つ女性に
- 桂枝茯苓丸:比較的体力があり、のぼせ・頭痛・経血過多などが目立つ女性に
つまりこの2つの処方は、「陰(虚)」と「陽(実)」という方向性の異なるアプローチを担っているのです。
2. 当帰芍薬散|血虚と水滞タイプに
当帰芍薬散は、虚弱体質で血のめぐりが弱い「血虚」、そして水分代謝の低下による「水滞」がベースにある体質に用いられます。
📌 適応する体質・症状
- 冷え性で顔色が悪い
- むくみやすい(特に足)
- 倦怠感や疲労感がある
- 月経周期が長く、経血量が少ない
- ふらつき・立ちくらみ・貧血傾向
📖 処方構成(例)
当帰・芍薬・川芎・茯苓・沢瀉・白朮など
→「補血」「活血」「利水」をバランス良く兼ね備えています。
※特に「妊娠を希望されている方」にも多く処方される代表方剤です。
3. 桂枝茯苓丸|瘀血・実証タイプに
一方、桂枝茯苓丸は「瘀血(おけつ)」という血の巡りの滞りを改善する処方です。比較的体力がある方に使われる「実証」寄りの方剤です。
📌 適応する体質・症状
- 肩こりや頭痛が慢性化している
- 顔がのぼせる/足が冷える(冷えのぼせ)
- 生理前にイライラしやすい
- 経血に塊が混じることが多い
- 月経痛が刺すように強い/しこりがある
📖 処方構成(例)
桂皮・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬など
→「活血化瘀(血の巡りを改善)」に特化した構成です。
※特に月経痛が強く、イライラ・のぼせ・胸の張りなどがある場合に適します。
4. 両者の比較ポイントまとめ
比較項目 | 当帰芍薬散 | 桂枝茯苓丸 |
---|---|---|
体質傾向 | 虚証・冷え性・むくみ | 実証・瘀血・のぼせ |
主な症状 | 倦怠感・貧血・生理不順 | 強い月経痛・経血塊・イライラ |
適応証 | 血虚+水滞 | 瘀血+熱症傾向 |
処方構成 | 補血・利水・健脾 | 活血化瘀 |
その他 | 妊活/体質改善向け | 瘀血体質の改善向け |
5. 実際の選び方は?
両者を混同しやすいですが、月経に伴う症状の「背景にある体質」が選定のポイントです。
✅ こんなときは当帰芍薬散
- 体力がなく疲れやすい
- 顔色が青白く、生理が遅れがち
- 浮腫みが気になる
✅ こんなときは桂枝茯苓丸
- 月経痛が刺すように強い
- 生理前にイライラやのぼせがある
- 舌に紫の斑点(瘀点)がある
6. 私からの一言アドバイス
「月経痛=桂枝茯苓丸」と決めつけず、その方の体質・冷え・むくみ・生理周期の様子を丁寧に見ていくことが重要です。
同じ「生理の悩み」でも、必要なケアはまったく異なるのが漢方の魅力であり難しさ。
ぜひ、セルフチェックや漢方相談を活用して、あなたに合う方剤を見つけてください。