【薬剤師が教える】桂枝湯類(桂枝剤)を深掘り
・基本となる『桂枝湯』を深く理解できる。
・桂枝湯から『派生している方剤(桂枝湯類)』も理解できる。
・中医学も交えて『より専門的に』理解できる。
『桂枝湯』について概要を一覧表にまとめてみた
名称 | 桂枝湯(けいしとう) |
出典 | 傷寒論(しょうかんろん) |
構成 |
君:桂枝 臣:芍薬 佐:大棗 使:甘草 |
効能 | 解肌発表・調和営衛 |
主治 | 外感風寒の証 |
その他 |
基本の方剤 |
一目でパッと確認したい方はこの表を参照してね。一つ一つ詳しく学習したい方はこれ以降の記事で解説します。一緒に見ていこう。
『桂枝湯の構成』について深掘り解説
君薬(くんやく):桂枝(けいし)
桂枝は『風寒表証(ふうかんひょうしょう)』という、いわゆるかぜ症候群などの治療に用います。
風邪(かぜ)症候群は、文字通り風邪(ふうじゃ)と表すよね。
風と寒さの邪気がカゼを引き起こすということが病名にも残っているというわけだね。
この風寒の邪気に対して効果があるのが桂枝(けいし)。いわゆるシナモン。
中医学で表記するとつぎのようになります。
これは西洋医学でいう
『発汗、解熱、消炎、鎮痛、鎮痙、血管拡張』などを表現している考えると理解しやすくなります。
桂枝を君薬に据えており、
君薬はその方剤の『メインの効能』を発揮する役割です。
『桂枝湯』は文字通り
『桂枝の効能=発汗解表・温経通陽』がメインとなり、
「かぜ症状に対して、寒さに負けぬよう身体を温め発汗させつつ邪気を払い、解熱し体調を治す」となります。
臣薬(しんやく):芍薬(しゃくやく)
芍薬の効能はたくさんあります。
臣薬は君薬を補助します。
『桂枝湯』では君薬を補助する臣薬に据えているため
芍薬の『斂陰』と『調経』を応用していると考えられます。
具体的には
- 『斂陰(しゅういん)』で陰液(おもに汗)の漏れを防止。
- 『調経(ちょうけい)』で陰陽バランスを整えている。
先に述べている通り桂枝湯では、
君薬の桂枝のおもな効能『発汗解表』で風寒邪気に対抗しているわけですが、
その過程で汗(陰液)が出過ぎてしまうのはよくありません。
陰液の消耗を程よい感じで調整しなければなりません。
もう一方で、桂枝は『調経』という気の巡りを改善し整える効能ももちます。
風寒表証のメイン舞台は、体表面です。
体表では、防衛の気『衛気(えき)』が巡っており、風寒の邪気と闘争しています。
ちなみに芍薬の『調経』は桂枝『温経通陽』と相性が良いです。
【桂枝+芍薬】を配伍(配合)することで
バリアの「衛気(えき)」と体内にある「営気(えいき)」を調和させる
『調和営衛(ちょうわえいえい)』という効果を発揮します。
体表面だけではなく、身体の全体の気を使って、守りを固めているイメージです。
本来、人の身体は気がみなぎっており、
きちんと身体全体をバランスよく巡っていれば、かぜにはかかりません。
しかし、体調不良や疲労ストレスの蓄積で乱れてくると邪気との闘争に敗れ、邪気の侵入を許すことになります。
そんな弱った状態を改善するために『桂枝湯』が誕生したのかもしれないですね。
佐薬(さやく):大棗(たいそう)
佐薬は君臣薬を補助します。
ここでの大棗の役割は、闘争中の衛気の頑張り過ぎを調整すること。
『気は脾胃で作られる』ため、脾胃の状態は非常に重要です。
脾胃の状態がよくなければ、良い気も生成できません。
ですから大棗の『健脾益胃』『養営』の効能でアシストしているわけです。
ちなみに、『養営(ようえい)』は、『栄養を補う』こととほぼ同じです。
脾は甘さを好みます。漢方では味にも薬効があると捉えるため
まさにあの甘さそのものが健脾の効能を発揮しているといえますね。
使薬(しやく):甘草(かんぞう)
使薬は、薬性、薬効の調和や緩和の役割です。
甘草はまさにうってつけ。
なぜならその効能がそのまま使薬の役割と一致するのですから。
ここでも例外に漏れず、その役割のために配伍(配合)されています。
桂枝湯の効能:『発表解表』『調和営衛』について深掘り解説
改めて、桂枝湯の効能は『発表解表』『調和営衛』です。
『桂枝湯の主治(しゅち)』『風寒表証』について深掘り解説
病(やまい) | 証(証候)という型 |
頭痛病 | 風寒頭痛:風寒邪気が由来の頭痛 風熱頭痛:風熱邪気が由来の頭痛 |
- 身体がなんらかで弱る。(虚)
- 外の風にあたって寒さを感じる。(風寒邪気、外感)
- 「風寒邪気>>身体の免疫(衛気)」の状態なので相対的に体表面は虚(表虚)
- 皮膚や毛穴という体表面から寒気(さむけ)を感じ口鼻からも邪気の侵入を許す(外感)
- 結果、かぜの初期へと発展。(太陽病という最初の病期ステージ)
- 具体的には『悪風・発熱・発汗・頭痛・鼻つまり・口渇なし等』といった症状が出る。
「桂枝湯はかぜの初期症状に効く」というのを
『桂枝湯の主治は、風寒表証』である
と、中医学では難しく言ってるってことなのね。
新たな表現に出会った際は「へぇ、別の表現方法もあるんだなー」
くらいに流しておくのがポイント。
あまりにこだわりすぎると挫折しちゃいます。
『桂枝湯からの応用と派生』について深掘り解説
・桂枝湯+芍薬→桂枝加芍薬湯
・桂枝湯+芍薬+膠飴→小建中湯
・桂枝湯+芍薬+黄耆→黄耆建中湯
・桂枝湯+葛根→桂枝加葛根湯
・桂枝湯+葛根+麻黄→葛根湯
・桂枝湯+朮+附子→桂枝加朮附湯
・桂枝湯+竜骨+牡蠣→桂枝加竜骨牡蠣湯
・桂枝湯+小柴胡湯→柴胡桂枝湯
・桂枝湯+麻黄附子細辛湯→桂姜棗草黄辛附湯
「生薬を加えたり変化させているのか」
その意図を学んでいけばより深く理解していけそうね。
まとめ
今回はこれから桂枝湯類を学ぶためのベースとなる桂枝湯について深堀りしてみました。
この記事で桂枝湯を中医学的な考え方から理解できたでしょうか。
初めての方には、少しむずかしく聞き慣れない表現もあったと思います。
ただし中医学から学ぶことで各々の生薬の効能の理解にもつながる記事となっています。
中医学から理解していけば、今後の派生・発展した方剤への理解もスムーズにできるでしょう。
1回読んで終わりではなく、何度も繰り返すことで徐々に古代の先人が考えた漢方理論を学ぶことができるはずです。
マイペースに学習を進めていきましょう。
このまま桂枝湯類の深堀りを続ける方は以下の記事からすすめてください。