【薬剤師が教える】桂枝加芍薬湯について徹底解説

【薬剤師が教える】桂枝加芍薬湯について徹底解説

セージ
桂枝加芍薬湯は、『桂枝湯類』=桂枝湯の派生でくくって覚えちゃいましょう。

 

この記事を読むメリット

・桂枝加芍薬湯の特徴を理解できる。
・脾が冷えることでの腹痛のメカニズムを理解できる。
・中医学も交えて『より専門的に』理解できる。

 

桂枝加芍薬湯について概要を一覧表にまとめてみた

 

名称 桂枝加芍薬湯
(けいしかしゃくやくとう)
出典 傷寒論(しょうかんろん)
構成 君:桂枝

臣:芍薬2倍

佐:大棗

使:甘草

効能 温脾和中・緩急止痛
主治 土虚木克(どきょもっこく)の腹痛
保険適応 腹部膨満感のある次の諸症:渋り腹、腹痛
特記事項 芍薬が桂枝湯の2倍。

冷えたお腹を温めるのが狙い。

IBS(過敏性腸症候群)、虫垂炎、便秘、下痢等に有効。

和漢の有無 60番

ツムラ、オースギ、クラシエ、コタロー、ジュンコウ、テイコク、本草

セージ
一目でパッと確認したい方はこの表を参照してね。一つ一つ詳しく学習したい方はこれ以降の記事で解説します。一緒に見ていこう。

『桂枝加芍薬湯の構成』について深掘り解説

君薬(くんやく):桂枝(けいし)

君薬はメインの効能を担います。

桂枝のおもな効能=『発汗解表』『温経通陽』
桂枝加芍薬湯は、寒邪によって冷えたお腹の腹痛改善を狙っている方剤です。
温めることで改善を図るのでメインは『温経通陽』の効能を利用します。

臣薬(しんやく):芍薬(しゃくやく)2倍。

臣薬は君薬を補助します。

芍薬の効能:『養血』『斂陰』『調経』『緩急止痛』『柔肝』『平抑肝陽』などなど。
この中で温めることに繋がる直接的なものはありません。
では「なぜ加えるのか?しかも2倍も。」というのは、
お腹・・・つまり
『脾が冷えること生じる悪影響』を考えると見えてきます。

脾が冷えることで生じる悪影響

  • 脾が冷える
  • 冷えると脾の機能が低下する
  • すると、気血津液に異常が生じる
  • 気:上に昇りにくく降下傾向になる(下痢)
  • 血:うまく巡らなくなる(冷えが加速)
  • 津液:不足しがちになる(便秘加速)
  • 結果として、胃腸が潤わなくなる(便秘加速)
  • さらに、胃腸内に熱がこもる(胃腸の炎症)

 

 

セージ
気血津液は『バランスよく巡っている』のが、まさに健康状態です。
なので『巡らない状態=なにか問題が生じる』というになります。

 

気血津液については別の記事で解説しています。より深く知りたい方はこちらを参照してください。

 

 

 

この根本である『脾が冷える』ことで生じる悪影響を改善するために『芍薬を倍量』にします。

 

具体的には、芍薬の効能の

・『養血』で血の巡りを促します。

・『斂陰』で津液の不足を防ぎます。

・『調経』で気の巡りを改善します。

・『緩急止痛』で腹痛を和らげます。

 

と、ここで視点を変えて

『脾が冷える』というのを『虚実』で捉えてみましょう。

 

すると『脾が虚である(脾虚)』と言えます。

 

この虚実(きょじつ)という概念は

絶対的なものではなく、相対的なものです。

 

ということは、『脾が虚である』時

必ず相対的に『実となっている』ところがあるということ。

 

今回の場合それがどこなのかというと・・・

『肝(かん)』です。

 

脾が虚になるとき、相対的に肝が実にある。
土虚木克(どきょもっこく)の状態ともいう。

このことは、気血の観点でみるとき、非常に厄介です。

 

というのも・・・

『脾』が『気を生成』し『昇らせて』

『気』は『肝で血として貯蔵(蔵血)』されます。

 

リーオ
この辺は、
『脾は昇清を主る』
『脾は水穀精微を運化する』
『肝は血を蔵す』
といった基礎理論で学ぶ話だね。

 

さらに、

『肝』は疏泄(そせつ)といって、

『気と血の巡りにも関与』しています。

 

したがって、

この『脾と肝の連携がうまくいっている状態』があってこそ

『気血が正しく巡る』わけですが、

『脾が虚』で『肝が実』である場合、

生成も疏泄も蔵血も乱れ、結果、気血の巡りも乱れていきます。

気血津液は三位一体。グラデーションのように変化しているので、

気血の乱れは、津液にも悪影響するわけです。

 

 

気血津液の関係性に加え、五臓の関係性も知りたい方は

別記事で詳しく解説していますのでそちらを参照してください。

 

 

 

リーオ
んーと・・・ここまでの話をまとめると
冷えた脾だけにフォーカスしててもダメってことね。

 

セージ
そうだね。脾と同時に肝にもアプローチが必要になるね。

 

そこで芍薬の持つ『肝』への効能の2つでアプローチします。

  1. 『柔肝(じゅうかん)』で肝の機能をしなやかに整え、
  2. 『平抑肝陽(へいよくかんよう)』で『実』に傾いている『肝』をなだめ平ら方向にしていきます。
芍薬の効能を最大限に活用し、
寒邪によって『冷えたお腹』
すなわち『土虚木克の腹痛』を改善をねらいます。

 

佐薬(さやく):大棗(たいそう)

佐薬は君臣薬を補助します。

大棗の効能:『健脾益胃』『養営安神』『緩和薬性』『緩急』などなど。

ここでの大棗の役割は、脾虚の改善の手助けです。

『気は脾(胃)で作られる』ため、脾(胃)の状態は非常に重要です。

脾(胃)の状態がよくなければ、良い気も生成できません。

ですから大棗の『健脾(益胃)』『養営』の効能で脾虚改善の手助けをしているわけです。

健脾益胃(けんぴえきい)とは
脾や胃を補うこと。脾胃虚を治すこと。

ちなみに、『養営(ようえい)』は、『栄養を補う』こととほぼ同じです。

セージ
「大棗=なつめ」のこと。ナツメのあの甘さがポイント。
脾は甘さを好みます。漢方では味にも薬効があると捉えるため
まさにあの甘さそのものが健脾の効能を発揮しているといえますね。

 

使薬(しやく):甘草(かんぞう)

使薬は、薬性、薬効の調和や緩和の役割です。

甘草はまさにうってつけ

なぜならその効能がそのまま使薬の役割と一致するのですから。

甘草の効能:『補中益気』『生津』『緩急止痛』『調和薬性』『緩和薬効』などなど。

 

ここでも例外に漏れず、使薬の役割のために配伍(配合)されています。

 

セージ
「甘草」を含む漢方薬が多いのはこのためなんだね。

桂枝加芍薬湯の効能『温脾和中・緩急止痛』について深掘り解説

改めて、桂枝加芍薬湯の効能は
  • 『温脾和中(おんぴわちゅう)』
  • 『緩急止痛(かんきゅうしつう)』
です。
セージ
一つ一つ紐解いていきましょう。

温脾和中(おんぴわちゅう)とは?

『温脾和中』はまとめて『温中』ともいったりします。

『温中(おんちゅう)』の『中』=『中焦(ちゅうしょう)』のことです。

 

『中焦』とは『脾胃=お腹』 を表します。

 

『中』を『温める』と書いて『温中』ですから、

文字通り『冷えた脾を温める』のが『温中』です。

 

 

ちなみに

 

『和中(わちゅう)』の『中』=『脾胃』のことです。

『和』とは、調理を意味する言葉で

どちらかというと『脾』よりも『胃』を対象にするときによく使われます。

セージ
この辺は厳密に区別せず、
『中=中焦=お腹=脾=脾胃』
とザックリ割り切って覚えるのが
混乱をさけるポイントだね。

 

 

また

中医学的な治療方法8つをしめす『八法』のうちの1つ

『和法(わほう』 を表す言葉でもあります。

『和法(わほう)』とは
『臓腑機能の失調を協調させることで病邪を取り去る』治療方法のこと。
ゆえに『温脾和中』は
・冷えた脾を温めることで、
・機能低下を改善させ、
・中焦にある病邪を取り除くこと。
となります。

『緩急止痛(かんきゅうしつう)』とは?

『急』=痙攣・収縮・緊張を表し、
それをゆるめるのが『緩急』です。
『急を緩める』ことで、『痛みを止める(止痛)』
セージ
今回の場合で言えば、
冷えや炎症による緊張・収縮の痛みに対して
『緩急止痛』で治療してるわけだね。

桂枝加芍薬湯の主治:『土虚木克の腹痛』と『直中(じきちゅう)』について深掘り解説

土虚木克の腹痛のメカニズムについては、すでに臣薬:芍薬のところでも解説しています。
したがって、ここでは『お腹の冷え』に注目して深堀りしたいと思います。

土虚木克(どきょもっこく)の腹痛:冷えの状態を「虚実」で表現

まずは、先にこちらを再度おさらい。
脾が冷える=脾が『虚』であり、相対的に肝が『実』である
これを土虚木克と表現しているのは、
五行説で
  • 脾=土
  • 肝=木
に対応しているためです。
土虚木克を改善するには、
脾を補い、肝の実を抑制すればよい となり、
キーとなる『芍薬』を倍量にした桂枝湯=桂枝加芍薬湯を用いるわけです。

直中(じきちゅう)とはなにか?六病位(ろくびょうい)で捉えよう。

では、直中(じきちゅう)に話題をすすめましょう。

直中(じきちゅう)とは
直接脾胃を冷やしてしまった状態。太陽病からのいきなりの遷移のこと。
お腹の冷えは『冷たいものを直に食べ過ぎてしまう』といった
よくある理由で発生するプロセスと
もうひとつあります。
それが『太陽病からのいきなりの遷移』です。
セージ
この『いきなりの遷移』というのがポイント。
冷えをもたらす『寒邪が接身体の心(お腹の)に入る状態』といいます。
文字通りの直中(じきちゅう)です。
ただ、本来であれば、直中は例外的な邪気の進行です。
六病位(ろくびょうい)という漢方における病期ステージ分類をみてみましょう。
六病位:次の6つのステージに病期を分類して進行具合を捉える手法です。
六病位
  1. 太陽病(たいよう)
  2. 小陽病(しょうよう)
  3. 陽明病(ようめい)
  4. 太陰病(たいいん)
  5. 少陰病(しょういん)
  6. 厥陰病(けっちん)
本来であれば、疲労ストレスなどの原因で免疫が弱り、
表虚証で風寒邪気にやられている状態が『太陽病』であり、これをスタートとして進んでいきます。
病の進行に伴って、
『太陽病』▷『小陽病』▷『陽明病』と進んでいきます。
ところが、
直中は、突然ステージを飛び越えて
『陰』のステージまで侵入する状態です。
セージ
邪気が裏まで進行している『直中の少陰』という言葉が残っています。

直中の少陰:寒邪が『直中』して『少陰』まで達した状態

冬にかぜを引いてお腹にくるパターンは、この『直中の少陰』の状態であると捉える事ができます。
また、夏場で暑くてついついアイスや冷たいものを食べ過ぎてしまい、
お腹を壊してしまうのも『直中の少陰』だと言えるでしょう。
リーオ
うんうん、なるほどね。
だから治療方法は必然的に
「冷えを温め、お腹を整える」こと。
つまり『温脾和中・緩急止痛』桂枝加芍薬湯
チョイスしようってことになるのね。
セージ
あと補足するとすれば「傷寒論」では
太陽病期に誤治のせいで下痢をさせてしまい、
結果的に脾の陽気を失ってしまった。
陽気は温性だから相対的に
脾が冷え「直中」したともあるね。

『桂枝加芍薬湯からの応用と派生』について深掘り解説

桂枝加芍薬湯からの派生

・桂枝加芍薬湯+大黄=桂枝加芍薬大黄湯

 

リーオ
今度は大黄を加えるだけなのね。
どんな意図があってくわえたのかしら。
次回が楽しみ。

まとめ

 

今回は桂枝湯からの派生した、桂枝加芍薬湯について深堀りしてみました。

この記事で桂枝加芍薬湯の特徴を中医学的な考え方から理解できたでしょうか。

初めての方には、少しむずかしく聞き慣れない表現もあったと思います。

ただ、中医学から学ぶことで各々の生薬の効能の理解にもつながる記事となっています。

中医学から理解していけば、今後の派生・発展した方剤への理解もスムーズにできるでしょう。

1回読んで終わりではなく、何度も繰り返すことで徐々に古代の先人が考えた漢方理論を学ぶことができるはずです。

マイペースに学習を進めていきましょう。

 

このまま桂枝湯類の深堀りを続ける方は以下の記事からすすめてください。

 

 

参考文献