【薬剤師が教える】桂枝加芍薬大黄湯について徹底解説
この記事を読むメリット
・桂枝加芍薬大黄湯の特徴を理解できる。
・大黄を加える意図を理解できる。
・中医学も交えて『より専門的に』理解できる。
桂枝加芍薬大黄湯について概要を一覧表にまとめてみた
名称 | 桂枝加芍薬大黄湯 |
出典 | 傷寒論 |
構成 | 君:桂枝
臣:芍薬2倍、大黄 佐:大棗 使:甘草 |
効能 | 温中散寒・緩急止痛・通便 |
主治 | 裏寒腹痛 |
保険適応 | 比較的体力がない人で、腹部膨満。腸内の停滞感、腹痛などを伴う次の諸症:
急性腸炎、大腸カタル、常習便秘、宿便、しぶり腹 |
特記事項 | 桂枝加芍薬湯+大黄
芍薬は桂枝湯の2倍量。 冷えたお腹を温める+便秘改善 便秘型IBS(過敏性腸症候群)、急性腸炎等に有効。 |
和漢の有無 | 134番 ツムラ |
『桂枝加芍薬大黄湯の構成』について深掘り解説
君薬(くんやく):桂枝(けいし)
君薬はメインの効能を担います。
臣薬(しんやく):芍薬(しゃくやく)2倍
臣薬は君薬を補助します。
脾が冷えることで生じる悪影響
- 脾が冷える
- 冷えると脾の機能が低下する
- すると、気血津液に異常が生じる
- 気:上に昇りにくく降下傾向になる(下痢)
- 血:うまく巡らなくなる(冷えが加速)
- 津液:不足しがちになる(便秘加速)
- 結果として、胃腸が潤わなくなる(便秘加速)
- さらに、胃腸内に熱がこもる(胃腸の炎症)
まさに健康状態です。なので反対に
『巡らない状態=なにか問題が生じる』
というになります。
この根本である『脾が冷える』ことで生じる悪影響を改善するために『芍薬を倍量』にします。
具体的には、芍薬の効能の
・『養血』で血の巡りを促します。
・『斂陰』で津液の不足を防ぎます。
・『調経』で気の巡りを改善します。
・『緩急止痛』で腹痛を和らげます。
と、ここで視点を変えて
『脾が冷える』というのを『虚実』で捉えてみましょう。
すると『脾が虚である(脾虚)』と言えます。
この虚実(きょじつ)という概念は
絶対的なものではなく、相対的なものです。
ということは、『脾が虚である』時
必ず相対的に『実となっている』ところがあるということ。
今回の場合それがどこなのかというと・・・
『肝(かん)』です。
土虚木克(どきょもっこく)の状態ともいう。
このことは、気血の観点でみるとき、非常に厄介です。
というのも・・・
『脾』が『気を生成』し『昇らせて』
『気』は『肝で血として貯蔵(蔵血)』されます。
『脾は昇清を主る』
『脾は水穀精微を運化する』
『肝は血を蔵す』
といった基礎理論で学ぶ話だね。
さらに、
『肝』は疏泄(そせつ)といって、
『気と血の巡りにも関与』しています。
したがって、
この『脾と肝の連携がうまくいっている状態』があってこそ
『気血が正しく巡る』わけですが、
『脾が虚』で『肝が実』である場合、
生成も疏泄も蔵血も乱れ、結果、気血の巡りも乱れていきます。
気血津液は三位一体。グラデーションのように変化しているので、
気血の乱れは、津液にも悪影響するわけです。
気血津液の関係性に加え、五臓の関係性も知りたい方は
別記事で詳しく解説していますのでそちらを参照してください。
冷えた脾だけにフォーカスしててもダメってことね。
そこで芍薬の持つ『肝』への効能の2つでアプローチします。
- 『柔肝(じゅうかん)』で肝の機能をしなやかに整え、
- 『平抑肝陽(へいよくかんよう)』で『実』に傾いている『肝』をなだめ平ら方向にしていきます。
臣薬(しんやく):大黄(だいおう)を加える意図
さて、桂枝加芍薬大黄湯の本記事のメインはここですね。
「なぜ桂枝加芍薬湯に大黄を加味しているのか?」
それはもちろん
「大黄の効能を利用したいから」ですよね。
大黄はどんな効能をもっているのかというと・・・
と多岐にわたります。
攻下重視なら▷生大黄。
活血重視なら▷酒制大黄。
出血証の治療なら▷大黄炭。といった具合です。
ただ難解になるだけなのでここでは端折ります。
芍薬を倍量にしただけではなかなか治らない腹痛で、便秘がち・・・
それをなんとか改善させたいからたどり着いた「大黄配合」という手段。
六病位で捉えると、桂枝加芍薬湯では改善しない時点で
かなり裏まで進行しちゃってますよね。とりきれない。
後述しますが、
桂枝加芍薬大黄湯の主治は『裏寒腹痛』。
かなり裏が冷えているのを治せるのが特徴です。
ただ、大黄自体の性質は苦寒といって冷えタイプの薬性をもちます。
なので、本当は冷えるお腹に「寒」の性質を乗せるため
「冷えを加速させる方向に向かう」とされ、本当は良くないと判断されます。
故に、少量だけ用いるのです。
少量だけなので大黄の『瀉下攻積』という『瀉下』の効能を期待するというよりも、
少量を用い『清熱瀉火』という『抗炎症』作用を期待して、
腸内の熱を取ることを狙っているという点が本方剤の特徴です。
腸熱を除去した結果、自然排便を促します。
抗炎症作用狙いで大黄の『苦寒』薬性を利用。
おまけで瀉下作用で通便したらいいよねーってかんじですね。
あくまでも、桂枝加芍薬湯メインで『温中』しつつ、
腸内の熱を除去した結果自然と『通便』できた。
それを狙っている方剤なので、刺激が少なくマイルドな下剤とも言えます。
冷え性で虚弱な高齢女性にも好まれる下剤の一つだわね。
佐薬(さやく):大棗(たいそう)
佐薬は君臣薬を補助します。
ここでの大棗の役割は、脾虚の改善の手助けです。
『気は脾(胃)で作られる』ため、脾(胃)の状態は非常に重要です。
脾(胃)の状態がよくなければ、良い気も生成できません。
ですから大棗の『健脾(益胃)』『養営』の効能で脾虚改善の手助けをしているわけです。
ちなみに、『養営(ようえい)』は、『栄養を補う』こととほぼ同じです。
脾は甘さを好みます。漢方では味にも薬効があると捉えるため
まさにあの甘さそのものが健脾の効能を発揮しているといえますね。
使薬(しやく):甘草(かんぞう)
使薬は、薬性、薬効の調和や緩和の役割です。
甘草はまさにうってつけ。
なぜならその効能がそのまま使薬の役割と一致するのですから。
ここでも例外に漏れず、その役割のために配伍(配合)されています。
甘草+大黄の配伍(配合)は『大黄甘草湯』という下剤になっている。
実は、よく見ると本方剤の中には『大黄甘草湯という下剤』が含まれています。
なので、この隠れた方剤を含んでいるという点からも
マイルドに『瀉下方向に働く仕掛けになっている』わけです。
桂枝加芍薬大黄湯の効能:『温中散寒・緩急止痛・通便』について深掘り解説
- 『温中散寒(おんちゅうさんかん)』
- 『緩急止痛(かんきゅうしつう)』
- 『通便(つうべん)』
です。
温中散寒(おんちゅうさんかん)とは?
『中』を『温める』と書いて『温中』ですから、
文字通り『冷えた中焦(脾)を温める』のが『温中』です。
『散寒』は脾胃の陽気を運行させて温め
中焦にある寒邪を散らす方法です。
緩急止痛(かんきゅうしつう)とは?
通便(つうべん)とは?
『通便』とは、文字通り『便を通す』。
便秘改善させることです。
通便の程度は、非常にマイルドであるのが特徴です。
桂枝加芍薬大黄湯の主治:『裏寒腹痛』について深掘り解説
- 普段から虚弱よりな体質。
- 脾の機能が低下している=(脾虚・脾陽虚)
- そこに冷たい飲食物を摂取or寒邪にあたる。
- さらに脾胃が冷え、消化機能がますます低下する。
- 上述している脾が冷えて生じる悪影響も加わる。
『桂枝加芍薬大黄湯からの応用と派生』について深掘り解説
桂枝加芍薬大黄湯からの派生
・桂枝加芍薬大黄湯ー大黄+膠飴=小建中湯
・=桂枝加芍薬湯+膠飴=小建中湯
まとめ
今回は桂枝加芍薬大黄湯を深堀りしてみました。
この記事で桂枝加芍薬大黄湯を中医学的な考え方から理解できたでしょうか。
初めての方には、少しむずかしく聞き慣れない表現もあったと思います。
ただし中医学から学ぶことで各々の生薬の効能の理解にもつながる記事となっています。
中医学から理解していけば、今後の派生・発展した方剤への理解もスムーズにできるでしょう。
1回読んで終わりではなく、何度も繰り返すことで徐々に古代の先人が考えた漢方理論を学ぶことができるはずです。
マイペースに学習を進めていきましょう。
このまま桂枝湯類の深堀りを続ける方は以下の記事からすすめてください。
参考文献