漢方薬って
「名称が漢字の羅列・・・」
「なんだかとっつきにくい」
とおもったりしませんか?
読み方も独特で発音しずらいですよね。学習したてのころはしょっちゅう思ってました。
「どうにかこの抵抗感なくせないかなー」
とおもって試行錯誤してたとき
とある法則性をみつけました。
今回はその法則性に着目し、難しい漢方の名称を覚えるコツとして解説します。
【コツ1】:数字で表現パターン
方剤名に漢数字が入っているものがあります。
「一、二、三、四・・・」というように。
いくつか列挙しますね。
方剤の名称に数字が入っている漢方一覧
- 治打撲一方、治頭蒼一方、一貫煎
- 二陳湯、二朮湯、二妙散、二至丸、亀鹿二仙膠、水陸二仙丹
- 三黄瀉心湯、三物黄芩湯、三物備急丸、三妙丸、、三拗湯、三仁湯、三痺湯、三聖散、三甲復脈湯、三子養親湯
- 四物湯、桃紅四物湯、四君子湯、四妙丸、四妙勇安湯、四逆散、四逆湯、当帰四逆湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、通脈四逆湯、茵蔯四逆湯、四逆加人参湯、四神丸、四磨湯、四苓散、四生丸
- 五苓散、茵蔯五苓散、五虎湯、五積散、五淋散、五皮散、五神湯、五磨飲子、黄耆桂枝五物湯、五虎追風散、苓甘五味姜辛湯、五味消毒飲、補陽環五湯
- 六君子湯、香砂六君子湯、六一散、当帰六黄湯、六和湯
- 七味都気丸、七物降下湯、厚朴七物湯、七味白朮散、七厘散、七宝美髯丹、葱白七味飲
- 八味丸、八珍湯、八正散、八仙長寿丸
- 九味羌活湯、九仙散
- 十全大補湯、十味敗毒散、十味温胆湯、十味剉散、十棗湯、十灰散、十補丸
- 百合固金湯
数字の意味=『配合生薬の数』(もちろん例外アリ)
方剤名に数字が入っている漢方の場合、
その数字の意味の多くが『配合されている生薬の数』に一致します。
なので、名称から配合されている生薬数を読み解くことができるわけです。
いくつか列挙してみましょう。
二妙散(にみょうさん)
三拗湯(さんようとう)
四物湯(しもつとう)
五苓散(ごれいさん)
六君子湯(りっくんしとう)
七物降下湯(しちもつこうかとう)
=四物湯+釣藤鈎・黄耆・黄柏
=地黄・当帰・芍薬・川芎・釣藤鈎・黄耆・黄柏
八味丸(はちみがん)別名:八味地黄丸
=六味丸+桂枝・附子
=沢瀉・茯苓・牡丹皮・地黄・山薬・山茱萸・桂枝・附子
九味羌活湯(くみきょうかつとう)
=羌活・防風・蒼朮・細辛・川芎・白芷・黄芩・地黄・甘草
十味敗毒湯(じゅうみばいどくとう)
=荊芥・防風・独活・茯苓・川芎・樸樕・柴胡・桔梗・甘草・生姜
【コツ2】:臓腑で表現パターン
次は、 臓腑 (ぞうふ)が名称に入っている場合をおさえましょう。
なので、方剤名称に臓腑にちなんだ表現が入っている場合、
そのまま臓腑弁証の考え方が通用するので学習効率が高まります。
方剤名に臓腑が入っているものをいくつか列挙しますね。
方剤の名称に臓腑が入っている漢方一覧
- 安中散、黄耆建中湯、当帰建中湯、小建中湯、大建中湯、中建中湯、補中益気湯
- 平胃散、調胃承気湯
- 帰脾湯、加味帰脾湯、啓脾湯
- 三黄瀉心湯、清心蓮子飲
- 清肺湯、辛夷清肺湯
- 竹筎温胆湯
- 抑肝散、抑肝散加半夏陳皮
- 牛車腎気丸
では、一つ一つみていきましょう。
『中』=『中焦』『脾胃』
方剤の名称にある『中』とは
『身体の中心の気(中気)』のことを指し具体的には主に以下の2つを意味します。
- 『中焦(ちゅうしょう)』
- 『脾胃(ひい)』
『中』一文字で完結するよりも
といった具合に効能効果の表現に含まれる事が多いです。
例
また、『中』とは書かず、
そのまま『脾胃』が方剤名にあてられているものもあります。
例
『心肺腎』
前述の『脾胃』とおなじように
五臓の『心』や『肺』『腎』に作用させる狙いがある方剤に名付けられています。
例
『肝胆』
五臓の『肝』、六腑の『胆』に作用させる狙いのある方剤に名付けられています。
例
【コツ3】:含有生薬で表現パターン
正直、本当はこれが1番シンプルでわかりやすい命名法ですよね。
代表的な配合生薬を書いているケースと
含有生薬全部を書いているケース があります。
代表的な配合生薬がかいてる例
- 桂枝湯
- 麻黄湯
- 小柴胡湯
- 人参湯
など。
含有生薬全部入りの例
- 麻杏甘石湯
- 麻杏薏甘湯
- 芍薬甘草湯
など。
【コツ4】:加や合などで表現パターン
算数のように、足し引きがされていることがわかる方剤名があります。
例
- 桂枝加芍薬湯、桂枝加竜骨牡蠣湯
- 越婢加朮湯、桂枝加朮附湯、桂枝加芍薬大黄湯
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯、小半夏加茯苓湯
- 桂枝茯苓丸加薏苡仁、抑肝散加陳皮半夏
- 大柴胡湯去大黄
- 加味逍遙散、加味帰脾湯
- 茯苓飲合半夏厚朴湯、猪苓湯合四物湯
- 胃苓湯、柴苓湯、柴朴湯、柴陥湯、柴胡桂枝湯
「方剤名」+「生薬名」=「加」を使う
「加」=「加える」 のことで、主に生薬単品をプラスしている場合に用います。読み方は「加(か)」
例
すなわち、『抑肝散に陳皮と半夏を加えた方剤である』 ことが名前から読み取れます。
「方剤名」ー「生薬名」=「去」を使う
では反対に、マイナスの場合はどう表すかというと「去(きょ)」という文字で表現します。
例
すなわち、『大柴胡湯から大黄を除いた方剤である』 ということが名称からわかります。
「方剤」+「方剤」なら「合」を使う
生薬単体での足し引きではなく、方剤同士を合わせるケースもあります。
その場合は、「合(ごう)」で表現します。
例
すなわち、『猪苓湯と四物湯の2つの方剤で構成されている方剤である』 ということがわかります。
「合」で表記されない。もじって合体名称もある。
方剤+方剤=合ですが、例外もあります。
例
などなど。
応用編:『近似』の意味を上記の法則を用いて表現する。
中医学では存在するのに和漢にはない方剤というのがたくさんあります。
保険適応上の問題はさておき、無理やり近い配合にして使うケースもあります。
また、和漢オリジナルの方剤名も存在します。
近似の例
(どっかつきせいがん)
=大防風湯合疎経活血湯
=十全大補湯合疎経活血湯
(どっかつかっこんとう)
=葛根湯加朮附湯合疎経活血湯
(じゅうみざさん)
=大防風湯合四物湯(合茯苓飲)
=大防風湯合十全大補湯
(けいきょうそうそうおうしんぶとう)
=桂枝湯合麻黄附子細辛湯
などなど。
【コツ5】:五色表(方位)表現パターン
五色表の項目にはいろいろありますが、方剤名では方位における守り神由来のものがあります。
木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
東 | 南 | 中央 | 西 | 北 |
青龍(蒼龍) | 朱雀 | (三碧) | 白虎 | 玄武 |
対応する方剤名
- 小青竜湯
- 十棗湯(朱雀湯)
- 白虎湯
- 真武湯(玄武湯)
それぞれの方剤の効果を考慮すると、五色表の季節を照らし合わせるとそれなりに連想されて理解しやすいと思います。
木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
春 | 夏 | 土用 | 秋 | 冬 |
花粉症 | 浮腫など痰飲由来 | – | 皮膚炎、喉の渇き | 冷え |
春(東)→花粉症の季節→小青竜湯
「春といえば、花粉症」というくらいに いまや日本の国民病ともいえる花粉症。
アレルギー性鼻炎という病名になりますが、小青竜湯は治療薬の代表的な方剤の一つです。
小青竜湯の保険適応
- 木→東→青龍
- 木→春→花粉症
という連想から「花粉症→小青竜湯」と連想すればおぼえやすいですね。
夏(南)→暑い→水分欲する→むくみやすい→十棗湯(朱雀湯)
夏場は熱く、水分をいつもよりも欲しますよね。
それ故、体内には水分が溢れてむくみやすい。
多すぎる水分を取り除かなくてはならないわけですが、そんな方剤の名前には
南の守り神の朱雀の名前を用いたいです。
ただ朱雀湯という名称のついたものはなく、朱雀湯由来とされる十棗湯(じっそうとう)がここに該当します。
十棗湯の効能
和漢には存在しませんが、ぜひ覚えておきましょう。
秋(西)→乾燥し喉痛めやすい→白虎湯
秋は乾燥の季節として有名ですが、そんな時期に多い疾患はノドを痛める症状です。
金に属する秋から連想すると
- 秋→乾燥→ノドの渇き
- 金→西→守り神は白虎
という連想が成り立ちます。
実際、方剤名の白虎湯の効能は次のとおりです。
白虎湯の効能
[のどの渇き][ほてり][湿疹・皮膚炎][皮膚のかゆみ]
中医学では、「 肺胃熱盛 」の証にあたり、
冬(北)→寒い→真武湯(玄武湯)
最後は冬。
北国の冬の寒さはほんとうに厳しいものですが、寒さ対策に追われる時期です。
冷えが一番の大敵のシーズンであり、
北の守り神である玄武湯が由来とされる真武湯がここに該当します。
真武湯の効能
真武湯は和漢にあるのでぜひ覚えておきましょう。
【コツ6】:効能で表現パターン
日本語では効能といえば、「どんな病名に効くか」ということになりますが、ここでいうのは中医学的な効能です。
つまり、温めるとか冷ます、補するとか解くとか。
方剤名から効果の片鱗が読み取れる ものがあります。
例
- 温経湯、温清飲、竹筎温胆湯
- 疎経活血湯、通導散
- 黄連解毒湯、十味敗毒湯、敗毒散、荊防敗毒散
- 三黄瀉心湯、半夏瀉心湯、清心蓮子飲
- 清肺湯、辛夷清肺湯
- 清暑益気湯、補中益気湯、人参養栄湯
- 滋陰降火湯、滋陰至宝湯、潤腸湯
- 四逆散、当帰四逆散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯
- 七物降下湯
- 消風散、排膿散及湯
- 清上防風湯
- 小建中湯、大建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、安中散、平胃散
冷えには、『温め』で対応。
風寒邪気など冷えをもたらす病に対抗するための方法です。
『寒かったら温める』 という至極当たり前の方法ですが、方剤名からはその場所を垣間見ることができます。
例
温経湯→経絡を温める
竹筎温胆湯→胆を温める
淀みはなくす。『巡らせる、通す』
『淀み滞るのを良しとしない』 のが漢方です。
何が滞るのがよくないかと言えば
気血水 や 食物 便 痰飲です。
なので、方剤名からなにを巡らせていくのか読み取れます。
例
通導散→気、便を通す
毒を解き放ち、消し散らす
いわゆる解毒系に名付けられています。毒とは、病邪や病因のことを指します。
例
黄連解毒湯→黄連入りの方剤で解毒する
十味敗毒湯→10種の生薬で毒をとる
排膿散及湯→膿という毒を散らす
荊防敗毒散→荊芥&防風入りの方剤で解毒する
などなど。
火熱を冷ます、清ます。抗炎症。
西洋医学でいういわゆる抗炎症作用。
熱邪をとったり、熱源そのものを取り除き清らかにします。
例
→心の熱をさます清肺湯、辛夷清肺湯
→肺の熱をさます清暑益気湯
→夏の暑さ(暑邪)を冷ます
補う
『不足を補う』。いわば『補剤』ということが方剤名から類推できます。
例
などなど。
正しく『降ろす』
降ろすとは、
- 上りすぎているものをおろす
- なかなか降りていかないものをおろす
のいずれかを改善したい方剤名によくついています。
前者の場合は
気や水など、滞りなく上下に昇り降りしている状態が良しとされているものがうまく降りない時や
火邪など 昇りすぎて悪くなっているものをおろすのを狙う意図が読み取れます。
例
などなど。
後者の場合は
食物や便など 消化共に降りるはずが滞りおりないものを狙います。
建て直す
主に体の中心を建て直す意味で使われています。
前述した『中』の概念のことです。
例
などなど。
【コツ7】基本法剤で分類パターン
主に和漢で使われる分類で以下のようなものが代表的なくくりです。
例
- 桂枝湯類
- 人参湯類
- 承気湯類
- 麻黄剤
- 柴胡剤
- 地黄剤
- 石膏剤
- 参耆剤
- 大黄剤
- 四物湯類
- 四君子湯類
などなど。
桂枝湯類
桂枝湯をベースとして派生した方剤が該当します。
例
人参湯類
人参湯をベースとして派生した方剤が該当します。人参含有を指すこともあります。
例
承気湯類
承気湯の名前がつくものをまとめて指すことが多いです。
例
麻黄剤
麻黄湯をベース、または麻黄が含有されている方剤という意味で使われます。
例
柴胡剤
小柴胡湯をベース、または、柴胡が含有されている方剤という意味でも使われます。
例
地黄剤
地黄が含有されている方剤のことを指します。
例
石膏剤
石膏が含有されている方剤のことを指します。
例
参耆剤
人参と黄耆が含有された方剤を指します。
例
大黄剤
大黄が含有された方剤を指します。
例
四物湯類
四物湯から派生している方剤を指します。
例
四君子湯類
四君子湯から派生している方剤を指します。
例
まとめ
いかがだったでしょうか。
この7つのコツを使うだけでも網羅的に漢方を理解することにつながり、より興味を持ちやすくなったのではないでしょうか。
薬学生に講義するとみんなが「もっと早くこういうのを習いたかった」とよく言われます。
ぜひ学習の一助になれたらと思います。
最後までお読みくださりありがとうございました。